ルンベルト地方
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それから何度も襲撃されては逃げて、襲撃されては逃げてを7日ほど繰り返す。
そして広大な森を抜けて広大な荒野にたどり着く。
「ん?ここって」
檻に入っている一人が周囲の様子を見て何やらつぶやく。
「なら、と言うことは」
するとブツブツと何かを考え始める。
俺も思考を巡らす。
(荒野が広がっている、クメニギスの土地で該当するのは西南部あたりか)
クメニギスではノストニア程とは言わないが、国内全体がほどほどに緑が生い茂っている。
なので荒野にが見えたということはクメニギスの国境が近づいている証拠だ。
(そしてそれは同時に蛮国に近づいているということ……まずいな)
外を見ると、なぜだか昨晩からハイエナの獣人が同じ台車に乗りずっとこちらを監視している。
(とりあえず無視しよう…………だが国境付近になったということはより危険になるはずだ)
グロウス王国もそうだが、各国の国境付近には防衛のための砦や城が建てられている。
そこを普通に通過しようと考えればどれほど難しいか。
ましてや今回は数百人の奴隷に加えて、俺達も攫われている。既に連絡が入っているなら外に向けてだけでなく内側にも注意を向けられているだろう。
(さて、どうしようか)
騒ぎ立て、自らの居場所を知らせる。うん、あの男みたく殺されるだろう。
ではじっとしているとする。見つける可能性に掛けることになるが、見つからない可能性も出てくる、メリットもデメリットも存在する。
最後に自分の仕業だとわからないようにして騒ぐこと
(これが一番いいかな、出てきてくれないかイピリア)
『なんじゃ、いきなり呼び出しおって』
(少し頼みがある、近くに落雷を落としてくれないか)
厳重に警戒しているならある程度の落雷でも異変を察知してくれるだろう。
『ん?こやつらに直接じゃなくてか?まぁ良いぞ、だが、それだとお主の魔力を勝手に使うぞ?』
今の会話でわかる通り、俺の魔力は使えないが、なぜだがイピリアは俺の魔力を使い、術を行使することが可能だった。
どうやら敵が奪ったのは俺の魔力操作能力だけだったらしい。
(ああ、だが枯渇症状が出るほどは吸うなよ)
『わかっておるわい、それじゃあ!?』
ピタ
俺の首筋に伸びた爪が当てられる。
(イピリア、お前の姿見えてないよな)
『当り前じゃ、こんな状況でお主以外に姿を見せるかい』
(見えないし、触れない、匂いもしない、こんな状況でどうやって認識したんだ、こいつは)
灰色の髪からのぞける目は鋭く敵意を見せている。
「おけー、おけー、何もしないからその腕を下げてくれ」
「…………」
柔らかい声色でそう言っても腕を下げようとしない。
(……イピリア、まだ休んでいてくれ)
『了解じゃ』
イピリアが消えていくと、ようやく腕を下げてくれた。
(……参ったなこれは)
何に反応しているのかわからないが、ろくに動けない。
『そう言えば、ひとつ疑問なんじゃが』
ひょこっとイピリアが出てくるのだが、獣人は反応しない。
(エルフ見たく魔力を認識している訳じゃないのか……それでなんだ?)
『なんで大人しくしているんじゃ?儂が手伝えば逃げることは容易であろう?』
確かに逃げることは容易にできる。
(じゃあ、イピリアは俺が魔力を扱えない理由は分かるか?)
『さぁの』
(もしこれが永遠に続くなら?俺は接近戦で大きなハンデを掛けることになるぞ?)
『であろうな、じゃが、儂がいれば近づく前に滅殺できるぞ』
(かもしれない、でもな、お前は雷の速度で俺を動かすことができるのか?)
『ぬぅ』
(このままユニークスキルを封じられれば俺が困るんだよ、だから今は大人しくしている)
『じゃが、先ほどは暴れようとしたではないか』
(アレは無事に俺が救助されつつ、獣人を捉えて現状を聞き出せる可能性があったからだ)
俺が無事に救助され、襲撃した獣人数人を拉致出来たら、あとは拷問なり自白剤使うなりで聞き出せばいい。言葉もクラリスに頼んで念話で通訳を頼めばなにも問題ない。
『まぁいいわい、じゃが宿主であるお主が死にそうになれば有無を言わさず出るからな』
(その時は頼む)
ということで引き続き大人しくしておくことにした。
ガタ、ガタ、ガタ
現在は細かい岩場を通っており、何度も石を轢いて台車が跳ね上がる。
その度に嫌な振動が来て不快な思いをする。
(イピリア、上空から周囲の地形を見てくれないか?)
『了解じゃ』
俺にしか見えないイピリアが檻を通り抜けて空に上がっていく。
そしてしばらくすると下りてくる。
(どうだった?)
『言葉で教えるよりもこっちの方が早いわい』
そう言うとイピリアは額を触る。
そして見えたのが広大で高低差がある岩場とその先にある平地に建っている砦のような存在だ。
「……失礼ですが、あなた方は今どこらへんか見当はついてるのか?」
残念ながら砦に関しての知識はない、なのでここは詳しそうな人間に聞いてみるのが一番だ。
なので隣にいる壮年の男性に話しかける
「?誰だ君は?」
「マナレイ学院の生徒ですよ、訳も分からず攫われて、ようやくまともに考えられるようになりまして」
「ふむ、そうか………私の名はレシュゲル・エル・サラスファス、第七魔法師団長だ」
「お~魔法師団の方ですか(いや、知らないんだが)、軍隊の方ならここがどのあたりか目星はついておりますか?」
「正確な位置までは知らないが、森から荒野にたどり着いたということはそろそろ西方の国境に近くなっているな」
「ということはあと少ししたら蛮国へ入ってしまうわけですか」
色々と思案していると、レシュゲルは苦笑を浮かべる。
「そう悲観することではない、確かにクメニギスの国境は超えることになるが、ルンベルト地方ではかなり奥地まで攻め込んでいると聞く、陸路で蛮国に入るとしたら必ず、軍に見つかるはずだ」
「そうであればいいんですけどね、ちなみにルンベルト地方のこともご存じですか?」
「ああ、ルンベルト地方は蛮国へとつながる地方のことを指す。蛮国への陸路はそこを通るしかないからな確実に通るはずだ」
それは知っている、知りたいのはルンベルト地方の細かい地形だ。
「ちなみにどのくらい先まで進んでいるのですか?」
「それは中央のルートの……ってそこまでは知らなそうな顔だな」
「ええ、お恥ずかしながら」
「まずルンベルト地方には海に沿うように二つの山脈が存在している。我々は東の山脈をウェルス、西の山脈をミシュルと呼んでいる」
それから聞いた話だと、蛮国への侵略ルートは三つある。
一つ目はウェルスの東側の道、ここは砂地しかなく、高低差でしか身を隠す場所がないくらいだ。
二つ目はミシュルの西側の道、こちらは岩場で身を隠す場所も多くあるのだが断崖絶壁と呼べる場所で常に強風が吹き荒れている。下手をすれば一瞬のうちに投げ飛ばされて死に至る。このルートを通り切るまでには何割が残るか。
三つめがウェルス山脈とミシュル山脈の間を通る道だ。この道は緑が広がっていて、そこまで強い魔物が生息していなく、気候は安定していて、軍隊が進むのに十分な広さがある。三つのルートで一番安全のがこの場所だ。
「では軍は真ん中のルートを通っている訳ですね」
「いや、すべてだ」
………まじか。
「危険なルートも通っているんですか?」
「ああ、と言っても軍の者はごく少数だ」
「???では少数精鋭で進行している訳ですね」
「はぁ?何を言っているんだ?」
だがレシュゲルの表情から的外れの考えだと理解できる。
「失礼ですが危険なのですよね?そこに部下を送り込むのですか?」
「いや、部下はごく少数しか送らない。送るのは奴隷だ」
「……あ~なるほど」
危険な地は人数が削れる、なら削れても問題ない人物を派遣すればいいというわけか。
「なるほど、陸路ではどこを通っても途中で見つかる、ですか」
「ああ」
全てのルートを潰しているのなら何も問題ない。
「(ん?)山頂を通るのはどうなんですか?」
「あそこは無理だ、山頂が刃のようになっておってな、しかもほとんどが急な斜面になっていて数名が入念に準備をしてようやく通れるほどだ。こんな大人数では無理だろう、しかも山頂ならこの格好では確実に凍死するだろうな」
ということで山脈を通ることはないという。
「ではこの獣人達はどの行路を通ると?」
「それが不明だ。さて、この集団でどうやってルンベルト地方を突破するつもりなのだか」
その後もガタガタと揺れて大回りをして砦を通り過ぎる。




