お願いやめて、その人を連れて行かないで!!!
「バアル様!!!!」
バアル様が男に抱えられて外に連れ出される。
「邪魔!!!!」
「ふ」
対面しているハイエナの獣人は口角を上げて挑発する。
「そう、なら」
全力でユニークスキルを開放する。
「『太刀風』!!」
風の斬撃を放つ。
「ふふ」
「なっ!?」
獣人は構わず前に出ると、紙一重で躱す。
風の魔法は見えることはできない、なので躱すのは至難の業なのだがそれを事もなく行うことに驚く。
「がぁあ!!」
そのまま伸びた爪で切りかかってくるのを防ぐ。
(爪で刀と競り合うなんて)
普通に考えたらあり得ない。
ニィィ
「っ!?」
急に力が強くなり、競り負けてしまう。
「がはっ!?」
その隙を逃さずに蹴りが飛んでくる。
「っ!?」
背中が壁にぶつかり、肺の中の空気が無くなる。
「かはっ、かはっ」
何とか起き上がり、獣人を見据える。
するとステージの方から一人の獣人がこの席に飛び乗ってくる。
「***!!」
「……*****」
すると二人ともこの席から飛び降りていく。
「待て!!」
下を見ると、何人もの獣人が集まり、何人かの人物を抱えて外に向かう。
「っ、【浄化】ノエル!!」
「り、リンさん」
「動ける?」
「ご、めん、なさい、うまく、うごけ、ない」
「そうですか、では動けるようになったら寮に戻っていてください」
言い方は悪いですが、現状ではノエルは使い物にならない。
なのでいざというときの連絡網として残ってもらう方がいい。
「私はバアル様を追います」
「お、きを、つけて」
ノエルと楽な体勢にしたら、すぐさま、部屋をでてバアル様を追いかける。
(まだギリギリ間に合う)
『土知りの足具』で多くの振動が一か所に向かっていく。
(だめ、このままじゃ追いつけない)
普通に降りるのでは知覚できる範囲外に逃げられる。
「っごめんなさい『太刀風』!!」
通路に備え付けている窓を破壊し、そこから飛び降りる。
「っ」
着地寸前に下から風を巻き上げ衝撃を緩和する。
「どっち!?」
すぐさま地に足を付け、どちらに集まっているかを調べる。
(……っ二方向に分かれた!?)
一つが魔法塔、もうひとつは外壁の門に向かっている。
「どっち!?」
相手が逃げている現状で長くは悩めない。
(二分の一……逃げるなら外壁の方だけど、魔法塔にはなぜ?)
逃げる時に邪魔にならないように占領するということなら説明が付く。
(普通に拉致するためなら外壁の方だけど、バアル様が獣人に拉致される理由がない。なら魔法塔に連れて行き盾にするため?)
それだったら説明が付く。
「イチかバチか、魔法塔に」
「違う、違う!!」
「え!?」
後ろを見ると、いつの間にかルナがいた。
「はぁ、はぁ遅かった!?」
「どうしてここに」
「それは走りながら説明するわ」
ルナの話だと、実は今朝にとある情報を掴んだらしい。
「それが、今回の襲撃ですか」
「ええ、獣人による解放襲撃というべきね」
獣人による大規模な襲撃。
その目的は戦益奴隷として攫われた同胞の救出。
「その手順は大まかに三つ。まずは各奴隷商のと学院の同時襲撃」
「待ってください、奴隷商に関しては理解できますが学院の襲撃はなぜ?」
「それは理由が二つあります。まずは逃げるために必要な人質を確保すること、それともう一つは魔法塔に詳しい人物を拉致することです」
「一つ目は分かりますが、魔法塔についてですか?」
「ええ、外壁に逃げるとなると、まず間違いなく魔法塔から狙われることになります。なので彼らは魔法塔に詳しい人を拉致し、情報を引き出し、魔法塔を無力化するつもりです」
「でもそれなら全部の塔を同時にやらなければ」
私の感知だと向かっている魔法塔は一つだった。
「いえ、逃げるだけなら一つだけでも十分なんですよ」
「どういうことですか?」
「魔法塔は確かに強力です。ですが魔法塔には射程角度という物が存在します」
魔法塔が12本も経っている理由、それは一本では全方位をカバーすることはできないから。
だから裏を返せば、一本でも無力化できたのなら、その塔の範囲は安全地帯へと早変わりする。
「まぁ説明する順序は逆になりましたが、これにより学園から関係者から情報を聞き出し魔法塔の無力化、これが第二段階です」
「だ、第三段階は?」
「それは」
土知りの足具から特大の振動を感知する。
「門の破壊による正面突破です」
「!?、でもまだ魔法塔に仲間がいるんですよね」
「さぁね必要な犠牲なんじゃない?詳しく話わからないけど………私たちの目的はバアル様奪還、ただそれだけよ、従者ならそれだけを考えなさい」
「っ!、はい」
特大の振動を感知したということはすでに門が破壊された証拠。
「私は先に行きます」
「あ、ちょ!?」
風の力を使い飛び、空から俯瞰する。
(見つけた!!!)
今まさに門を通ろうとしている集団を見つけた。
その集団の最後尾に、バアル様を抱えている獣人がいた。
「っ待て!!!」
すぐさま門をくぐろうとする獣人の元に飛ぶ。
「バアル様を返せ!!!!」
刀を抜き男だけを切ろうとするのだが。
ギィン
「っ!?またあなたですか!!!!!!!」
ニィ
刀が講堂でやりあったハイエナの獣人に止められる。
「貴方のせいで!!!!!」
すぐさま刀に魔力を通し『風辻』を発動させる。
ニィ
(よけられた!?)
斬撃の線上に確かに捉えていたはずなのだが、いつの間にかその線上から離れている。
「『嵐撃』!!!」
すぐさま刀を向けて『嵐撃』を放つ。
「*****」
軽やかにそれすらも避けるとなにかしゃべり、笑い出す。
「何がおかしい!!」
すぐさま刀を構えて、駆け寄るのだが。
獣人は上を指さし、笑う。
その意図はすぐさま理解した。
獣人の門の破壊は乱雑に行われている。
その下である程度大きな戦闘をしたらどうなるだろうか。
ただでさえ不安定な状態なのに下で強風を巻き起こせばバランスを崩し。
門自体が崩壊する。
「っそういうことか、くそっ!!」
何百と言える岩が降り注いでくる。
「『風、ぐっ」
避けるために『風辻』を使おうとすると、横から殴られ岩が降り注いでいる場所に戻される。
「だめ!やめて!」
上から降ってくる瓦礫に次第にバアル様が見えなくなる。
「その方を!!バアル様を連れて行かないで!!!!!!!!」
私の叫び声は、岩が降り注いでくる音にかき消されてしまった。
この後、登場人物の紹介をして第七章終了です。
こんな終わり方したくなかったのですが、文字数の関係で章をここで一度区切ることにしました。




