魔法の理論
「さて、それでは実験を始めて行こう!!」
テンションが高いロザミアがぼろい実験室で騒ぐ。
「まずバアルのおかげで宙にも魔力が漂うことを教えてくれたことで、行き詰っていた思考が動き出した、ありがとう」
「どういうたしまして」
「さて、それでは…どうしよっか」
やけにハイテンションだったのがすぐさま鎮火する。
「まず魔力についての再認識をしましょう」
「わかった」
まず、魔力とは体の内側と表面にある何かだ。
そして内側の魔力は自在に動かせるが、外側には肌から放出し、波立たせ宙に留まらせることしかできない。
用途としては、内側に存在している魔力を操ることで身体強化となり、外に放出する際に一定の形を取れば魔法になる。
「以前わかっているのは、ここだけだった、だけど、バアルの教えで、ここに『肌の表面にある魔力のほかに外側に存在する自然魔力が存在する』という記述が加わる。これを発表すれば大幅に予算が増えるかもね」
「ですね。ですが、裏を返せばまだそこまでしかわからないとも言えます」
「はは、研究員の意欲が高いのは喜ばしいよ」
「それで次に研究するのは魔法に関してです」
「うんうん…ん?」
ロザミアは首をかしげている。
「簡単に言うと、魔力がなぜ魔法を発動できるかの実験をするのです」
「おお、なるほどね、だけど私も似たようなことをやったけど、成果はなかったよ」
そりゃそうだろうな。
「ではこれからいくつかの実験をしていきたいともいます」
机の上に用意するもの。
・蝋燭数本。
・密閉空間にできるコップを二つ。
・土台として錬金板。
以上!!
「これだけかい?」
「その通りです、それともう一つだけ実験を、ロザミアさん、コップの中で火魔法を使うことはできますか?」
「?できるんじゃないかな『ファイアーボール』」
逆さに置いたコップの中に火の玉が出来上がる。
「問題なくできているな」
「そろそろ説明してくれないかい」
大変待ち遠しいと顔に書いてある。
「まずは見てください」
蝋燭に火をつけ固定し、コップをかぶせる。
しばらく火は燃えるが、すぐに中の酸素が消えて蝋燭の火が消える。
「消えたね」
「ああ、消えた」
そして同じものをもう一つ作りだす。
「次だが、このコップの中で『ファイアーボール』を生み出してくれ」
「??『ファイアーボール』」
コップの中で火の玉が浮かび上がる。
だがしばらく燃えると自然と消滅していく。
(つまり火魔法でも普通に酸素を消費するのか)
「これがどうしたんだ?」
「ロザミアはなぜ炎が消えたか知ってるか?」
「そりゃ宙にある燃える要素が無くなったからさ」
(その概念は知っているのか)
となると話は早い。
「ではその炎のもとはなんだと思います?」
「うん?宙にある燃える部分に火をつけるだけだろう」
「では何もしないで火が起こると思いますか?」
「どういうことだ」
………ああ、もどかしい、一から科学の理論を話してもいいが、そんなことをすればめんどいことこの上ない。
「いいですか、魔力なしでは火はつかないんです、ですが魔力がない状態でも火をつけることはできますよね?」
「ああ、古いが火打ち石とかもあるのからな」
「ではまず、魔力がない状態で考えてください。魔力を使わずに火を起こすのには何が必要ですか?」
「それは薪に火種だな………ああ、言いたいことが分かった」
どうやら意図を理解してくれたようだ。
「普通の環境では宙にある燃える要素、それと薪などの火を保つ部分と火種が必要になる。そして魔法だと宙にある要素と魔力だけで事足りる、つまりはその魔力が薪と火種の部分の役割を持っていると言いたいんだな」
「ええ、ですが、ただ魔力を流したとしても燃えないのは理解していますよね」
『ファイアーボール』でも三角錐の形を作り、沿うように魔力を流さないと発動しない。
「ああ、つまりは魔力自体は薪や火種の代わりにはならない、だが動きによってそうしている部分があるということか…」
「そう、そして一番しっくりくる考えは火魔法の魔力の動きでは燃えない要素を薪や火種に変えていることだ」
「??どうして燃えない部分が燃える部分になるんだ?」
「それは………」
思わず喋りそうになったのを止める。
「知っているのなら教えてほしいのだけど?」
一応、これというという部分は説明できる。
火魔法は大前提に何もない宙に火を作り出す。
ここで考えてほしいのがどうやって火を作り出しているのかだ。さきほどコップの中で火魔法が自然と消えたことから酸素を消費しているのは理解できた。もし仮に魔力が炭素の代わりをしているのならば、燃やすための熱はどこから来たということになる。次に今度は魔力が熱と考えると今度は酸素単体で燃焼反応を起こさなくてはいけない。だが火が見えている時点で燃焼反応、つまりは化学反応による光が発散していることになる。となると魔力は炭素でも熱でもないことになる。たとえ水素であっても0.00005%ほどしかないなので関係ないと予想する。では何か、もし仮に魔力を元素の陽子、電子、中性子を変更できるとしたらどうだろう。もちろん突飛な発想だ、だがこれが成り立てば魔法はありえないことではない。
その証拠に
(窒素を炭素の同位体にするんだったかな)
安定している窒素に中性子をぶつけると炭素の同位体を作ることができる。
後は中性子を何度もぶつけて熱を発生させれば無事に燃焼させることができることになる。
なので仮に魔力が中性子であるとするならばこの仮説が成り立つわけだ。
(これは俺が前世の知識を持っているからこそ思いつくのであってロザミアにそれを説明するとなると……………………………………………ちょっと待て、中性子?)
ブワッ
嫌な汗が体中を濡らしていく。
「リン!!!今すぐ【浄化】を複数回、いや数十回掛けろ!!!!もちろん全員にだ!!!」
「え、はい、わかりました」
一瞬戸惑ったが、すぐさま命令通りに【浄化】を掛けてく入れる、それも何十にもだ。
「それと今すぐ、この研究室から出ろ!!」
「いやだけど」
「今すぐだ!!!」
ロザミアが抵抗しそうだったのですぐさま詰め寄り、有無を言わせない。
魔法の世界に科学持ってくんなと思う方もいるかと思います。そのような方は、へぇ~程度で済ませ流してもらえれば幸いです。




