さてとこれで
現れたのはバアル・セラ・ゼブルスだった。
「…………どうしてこのような場所に」
「実は我が屋敷から盗難がありまして、その品を追ってきたらここにたどり着いたわけです」
すると三人のうちの一人の顔が引きつる。
「……反応はその女性騎士から出ているようですね」
「失礼だが何が盗まれたのだ?」
「鍵ですよ、我が屋敷にある牢屋の鍵です」
女性はすぐに腰にあるポーチから棒を取り出す。
「そうです、それがそうですね」
バアル・セラ・ゼブルスは子供がするとは思えない顔をする。
「なぜ王城の騎士が鍵を?それにそこの二人は牢屋に入っていた2人によく似ていますねぇ~」
罠にかかった獲物をいたぶるように追い詰めていく。
「「「「…………」」」」
「さて説明を求めてもいいですかグラス様?」
この場が緊張感が増していく。
リンも空気に充てられたのか刀に手を添えている。
パン!
バアル・セラ・ゼブルスは手を叩き、空気を弛緩させる。
「さて、それでは交渉に入りたいと思いますがいかがです?」
ところ変わって王城のとある一室に移動して話を聞くことにした。
「まどろっこしいことは嫌いなので単刀直入に言います、今回の件を見逃す代わりに俺も仲間に加えてください」
「どういうことだ?」
グラスは意味が解らなかった。
「おそらくこの騎士団は陛下の肝いりの部隊なのでしょう?そんな部隊を消すのは俺も本意ではありません」
「……つまり?」
「俺にもその部隊を使わせろ、ということですよ」
この言葉に4人は反応する。
「この騎士団をか?」
「そうです、陛下公認の諜報部隊、もしくは暗殺部隊ですかね」
「できると思っているのか?」
「いや、できないでしょうね」
俺は即座に否定する。
「すでに陛下以外にもこの騎士団の支援者は居るでしょう、その見返りに多少の情報などを流している…………違いますか?」
俺の見立てでは何人もの貴族が裏で支援してこの騎士団は成り立っている。
「そこに入るなら並大抵の支援ではないでしょう」
「……そうだな」
グラスは認めてくれた。
「だがいくらお前が喚き喚きまわっても意味がないぞ?」
「重々承知しています、ですがその支援者の中に俺に殴りかかってきた奴がいるなら話は別です」
無論、比喩だが。
「魔道具事件の事か?」
そういう風に言われているんだな。
「その通りです、俺はこいつらを許すつもりがありません」
手打ち?そんなものそうそうできるわけないだろう。
893が指を詰めるのとおんなじ様なものだ。
それ相応の何かを失ってもらわないと。
「それに見たでしょう、この追跡能力を。これは俺特製の魔道具のおかげです」
諜報部や暗殺集団からしたらほしいだろう。
「私をあなたたちのお仲間にしてもらえるなら、これを支援しましょう」
さてどう来る?
「……………………」
グラスは考えをまとめている。
(考えろ考えろ。俺を味方に加える代わりに数名を差し出すか、この申し出を断るか)
どちらが益があるのか。
俺たちの条件をのみ便利な魔道具を都合してもらうか、このまま馬鹿どもの言いなりになるか、だ。
すると、急に扉が開き数多くの騎士が入ってくる。
「これが答えですか?」
「ち、違う!これはどういうことだ?!」
口封じしようとしに来たのかと思ったのだが違うようだ。
そして騎士がある人物に道を譲る。
俺はその姿を見ると臣下の礼を取る。
「良い、楽にしろ」
入ってきたのはグロウス王国の現王、アーサー・セラ=ルク・グロウス陛下だ。
「さて、話は聞かせてもらった。私の組織を使いたいようだな?」
廊下で盗み聞ぎしていたのか国王なのに。
「そうですね、私としてはそうしたいのですが」
「…………いいだろう」
おや、即決してくれたな。
「代わりにあの三人を追跡した魔道具を用意してもらうぞ?」
「陛下、失礼ですが意味が解っておいでですか?」
俺を引き込むのなら身内を差し出すことになるんだぞ。
「無論だ、大勢の馬鹿と一人の天才、友誼を結ぶならどちらを選ぶ?」
俺なら天才一択だな。
「わかりました」
「では、条件を決めよう」




