クメニギス魔法国ノ奴隷制度
「それで、どの器具が必要なのかしら?」
「お盆と魔石だけでいい」
「それだけ?」
疑問に思いながらも用意してくれた。
「まず必要なのは【培養液】」
『亜空庫』から錬金術から作り出した培養液を取り出す。
「へぇ~時空魔法を使えるのか?」
「ああ(どこに行ってもこのくだりが始まるな)、実験に必要なのは培養液に魔石と切りたての体毛だ」
「体毛?」
「ああ、何かの素材でないか?」
「それなら昨日採ってきた『突猪』体毛があるからそれを使おう」
どっかの棚から束になっている毛を取り出す。
「まずは魔石の魔力を全部抜く」
触れた状態で身体強化を発動し、魔石の魔力を吸収する。
「これで全部抜いた、確認してくれ」
全部の魔力を抜いた魔石を手渡す。
「ああ、確かにないな」
「それじゃあ次にお盆に培養液を入れ、体毛を投入し、その上に魔石を置くだけ」
「そのあとは?」
「あとは二、三日放置してみろ、そうすれば魔石が復活しているはずだ」
「だけどそれって毛に残っている生命力を使って魔力を作り出しているということにならない?」「だったら生命力が無くなるまで続ければいい、生命力は食事でしかとれないんだろう?」
この実験の趣旨は生命力が魔力を作り出している物ではないと証明するためだ。
「……もう実験はしたのか?」
「ああ、だがその目で見てみるまでは納得できないだろう?何だったら、もう一つ体毛を用意しておけばいい、そうすれば朽ちたタイミングで生命力が切れたと判断できるだろう」
「なるほど………バアルはすごいね」
それから1週間、実験を続けた結果、魔石にはほんの少しだけ魔力が戻り、培養液の体毛はそのままで、もう一つのほうはしなびて朽ちていった。
「つまり、魔力は空中にも存在し、細胞が生きている状態であれば外の魔力…この場合は自然魔力とでも呼ぼうか、それを吸収し、自身の魔力へと変換してくれるわけだね」
現在、ロザミアの奢りで高級レストランで食事をしている。
「ああ、ついでに言えばこれは後で確かめた実験だけどな」
「後から?」
「ああ、グロウス王国がノストニアと交易している話は知っているか?」
「もちろんさ、ポーション関連の研究室がノストニアからの交易品が高いって嘆いたのを覚えている」
「エルフの生態は?」
「人よりも何倍も強い、魔力が見え……カンニング?」
「失礼な、先に事実を知ったと言ってほしい」
「納得だよ、どうりで即座に否定したはずだ」
ロザミアも理解できただろう。
「だったらエルフの一人や二人実験に付き合ってもらいたいものだけど」
「この国じゃ無理だろう、奴隷が普通にはやっている時点で来やしないさ」
「だね、もし手に入れようとしたら裏社会に出入りしないといけなくなる、それはあまりにもリスクが高いさ」
「………国で奴隷が認められているのに裏側でもあるのか?」
「ああ、あるさ、そうだね、君は奴隷制度についてどこまで知っている?」
「残念ながら奴隷がいることだけだ」
「じゃあ教えよう」
クメニギスでの奴隷は3種類に分けられる。
一つ目が刑罰による、犯罪奴隷。罪状により刑期が決められ、その間は国から受けた指示を必ず受けなければいけない。ちなみにその指示を無視しようとすれば容赦なく首輪から刃が突き出し死に至る。
二つ目が身売り。これは国民奴隷といい、購入者に衣食住を保証させる奴隷だ。自身の奴隷商に売り込み、その分の金額を貰う、その後に購入者のもとに売られていくというものだ。もちろん彼らにも人権というものが存在し、ひどいことをされれば訴えることもできる。そして働けば、購入者から国が定めた最低賃金をもらうことができる。これが自身が売られた金額と購入された時の金額になれば、奴隷の身分から解放されて、奴隷の身分から解放される。まぁ一種の救済制度と言い換えてもいい。
そして最後が戦益奴隷だ。これは正真正銘のまさに奴隷だ。買われたら最後、死ぬまで付き従わなければいけない。嬲ろうが犯そうが殺そうが罪には問われない、本当の奴隷。主に戦争などで手に入れるらしい。奴隷商の本領はここにあると言っていいらしい。その証拠に背中にクメニギスの烙印が押される、生涯逃げることはできないとのことだ。
「奴隷制度はこの三つさ」
「だが聞いた限りだと、裏社会が出てくるとは思えないんだが?」
「それがあるんだよ、戦益奴隷、実はこれは戦時中の裏切り行為をした軍人や民間人もこれに含まれてしまうんだ」
「……なるほどな」
ロザミアの説明でわかってしまった。
「大きな声じゃ言えないけど、どうしても戦益奴隷に落としたい奴がいたら、出ちあげて無理やり落とすんだよ、ほかに……」
ロザミアが口を噤む。
(どうせ、戦争していない他国からも攫い、戦益奴隷に仕立て上げているんだろうな)
その中にはもちろんグロウス王国の民もいるだろう。
「まぁたとえ裏社会にエルフが出品されても研究室に買えるだけの資金なんてないから」
「俺がノストニアにチクるとは思わないのか?」
「その時はその時さ、ある程度国は削れるけど、その分貴重なエルフの戦益奴隷も手に入るんじゃん」
ロザミアはむしろそうして欲しいという願望すらありそうだ。
「まぁ友好的にできるならそれに越したことないさ」
「そうだな、もしノストニアと全面抗戦になってもグロウス王国は関与しないつもりだからな」
「ははは、だろうね、それで、次の実験なんだけど」
それからは魔力についてどんな方針で研究していくのか存分に話し合った。




