疎まれる存在
「………これを……明日」
隣で見ていたリンが絶句する。
普通に考えれば、この量を一日でやるのには無理だろう。
この場で軽く内容を見てみると、魔力に関することの研究ならほとんど行っているようだ。
「できる?」
「…いいだろうやってやる」
「そう言うと思っていた、寝泊まりに関しては専用の寮があるから案内する」
今度は寮に案内される。
「ここが君たちの寮だ」
案内された寮は学院の一部に併設されている。
「本来なら男女別になっているんだが、君たちは特別に一室丸々貸し与えられることになっている」
案内されたのは自室と同じ大きさの部屋だ。
つまりはかなり大きい。
「ベット、クローゼット、キッチン、本棚、イドラ商会の暖房と冷房、それと洗濯機も常備しているし、干すためのベランダもついている。寮の設備としては最もいいところだよ」
かなりの好待遇らしい。
「食事に関しては食堂のおばさんに聞いてくれ」
今度は寮の食堂に案内される。
食堂では昼頃と言うこともあり、大勢の学徒が席についている。
「あら、ミアが一人じゃないなんて珍しいわね」
料理をしているおばちゃんの一人がロザミアに話しかける。
「ようやく人が入ってね、その世話をしているのさ」
「そうかい!よかったね!」
何やらしきりに喜んでいる。
「はて、何て名前だい?」
「これから二年お世話になる、バアル・セラ・ゼブルスといいます」
「え!?貴族様かい!?」
「まぁ他国のですが」
すると周辺の人たちが驚く。
「ロザミア?」
「うん、ここは生徒なら朝夕の二回は無料で食べられる、昼も比較的に安く食べられる」
「それで?」
「まぁそんなところだから貴族は使う事はまずないんだよ」
聞くと、学院の外に出てレストランとかで昼食をとっているようだ。
「だからこの反応か」
周辺の人の服装を見てみると、たしかに制服にしてはどこかくたびれているのが多かった。
学食で安い昼食を食べている苦学生のようなものだろう。
「だが、ロザミアは貴族だろう」
「うん、まぁ、そうなんだがな」
歯切れが悪い。
「ミアちゃんはね、10歳に入学したのよ」
「それは学院長に聞いた」
「ならこの学園の平均年齢は知っている?」
………なんとなく読めた。
マナレイ学園はクメニギスでは普通の国民なら誰しもが知っている学院。
それは裏を返せばそこに入ればクメニギスでは絶対的な地位を確立したと言ってもおかしくはない。
入学生の平均年齢平民は20~、貴族は15~となっており。
その背景には貴族は入学させるために多額の費用と時間を費やすことにある。
我が子にはいいところに行ってほしいとも、一族から優秀な人材を輩出したいという考えからきている。
となれば平民よりも何年も早く入学することができるようになり、自尊心や傲りを誘発してしまう。
ではその中に自分よりも幼い年齢の子供が入ってきたらどうなるか。
自分は15でようやく入学できたのに10で入学してきた存在、さぞ鬱陶しくて邪魔な存在に見えるだろう。
「意図的に無視されたり、ものを隠されたり、研究の邪魔されたりしていたのよ」
「それでよく泣いていてね、あたしら平民だけど放っておけなくてね」
「そうそう、そしたら懐いてくれてね、悲しいことがあったらすぐ私らのところに来てお菓子を作って話を聞いたもんさ」
「本当よ、あの頃のミアちゃんはかわいかったわ~」
それからロザミアの恥ずかしい話やかわいかった時の話がマシンガンのように飛んでくる。
「【やめて】」
ロザミアの一言でおばちゃんたちが話すのをやめた。
「ごめんよ、ついね」
「そうそう、あ、新しい研究者が加入したお祝いに今日は豪華にするから」
そう言って具材たっぷりのサンドイッチを作り始める。
「さっき聞いた話は忘れて」
「面白いから嫌だ」
「へぇ~」
俺達の間で剣呑な雰囲気が流れる。
「ほら、ミアちゃん友達をいじめちゃダメよ」
「友達って、バアル君は弟ぐらいの年の差があるだけど?」
「そんなのあたしらから見れば誤差だよ、誤差」
「ほらミアちゃん、アレを見せておくれよ」
「そこの君もね」
……アレ?
「ああ、これの事」
なにかが書かれたカードを取り出す。
「これは学生証だよ、学院の設備を借りるのならこれがないと」
「もらってないんだが」
「ああ、彼については明日出来上がるから今日は何とかしてくれない?」
「仕方ないね、じゃあもう三人前作ってやるから、少し待ってな」
そしてロザミアと同じぐらい具材が詰められたサンドイッチが渡される。
「どうするここで食べてく?」
「今回はバアル君に任せるよ」
「いつもはどうしているんだ?」
「包んでもらって研究所で食べているよ」
……今回は場に慣れるためにこの場でお願いした。




