厳しい方針
「学年が存在しないですか、思い切ったことをしますね」
この学院には学年などは存在していない。
好きに学び、好きに研究し、好きに卒業する。
それがこの学院では許されている。
「生活費さえあれば、好きに学問に覚えることができる、学院はそう言うところだよ」
「卒業も自由にですか」
「もちろん、条件があって単位という物が一定以上あること、もしくは3人の教授の推薦があればできる」
こういう風に面白い体制を取っている。
そしてだからこそ、残酷と言える。
(パーツはやるから、あとは自分で新しい機会を組み立てろと言っているようなものだ)
なので本当に成果を残せるのはごく一部だろう。
(あとは有名研究室の出というブランドと、寄生くらいだな)
そんな奴らを除けば、魔法を発展に貢献する人物を作り出すのには最適な環境だろう。
「さて、挨拶も終わったことだし、早速行くとしようか」
突然立ち上がると俺たちの傍に立つ
「【ついてきて】」
「?」
「「!?」」
ロザミアが扉の方に進むのだが。
なぜだかリンとノエルがそれに追従する。
「さぁて、これから楽しい学問の………あれ?」
扉を開けて外に出ようとしたタイミングで俺が未だにソファに座っていることに驚いている。
「なんで?」
「いや、こっちがなんでだ」
シャキ
シュル
するとリンとノエルが俺の目の前に来て警戒する。
「ああ、待って待って」
「先ほどの行動から待つと思いますか」
リンの周りに風が逆巻いている。
「はぁ~ロザミア、お前の悪い癖だぞ、効率的だからと言ってその力を使えばどうなるか散々知っているだろう」
どうやらローエン学院長は今の行動とかに目星があるようだ。
「謝るから、剣を納めてくれ、ただ新しい研究員が来て浮かれていただけだ」
「………次に同じような行動が見られたら即座に剣を抜きますから」
どうやらリンに警戒人物認定されたようだ。
(………にしても)
先ほどの何かは俺に対して行ったはず、だが俺ではなく二人に掛かってしまった。
様々な疑問が出てくるが、これだけは分かる。
「学園長、この学院内で襲われた時は自衛は許可されていますよね」
「ああ、魔法の爆発などの可能性もあるからな、自衛は当然許可してある」
まぁ次同じようなことがあれば容赦なく反撃しますよという言い回しに気づいてくれている。
「ロザミア、悪気がないのは分かっているが、もう少し客人は丁寧に扱いなさい」
「は~い、ゴメンね、悪気はないから」
そう言って謝るが先ほどの件もあり警戒は続ける。
「それじゃあ、本当に行こっか」
学院長を見ると頷いているのでひとまずは安心できるということだ。
「おっとそうだ」
素直について行こうとすると振り向く。
「さぁて、これから楽しい学問の始まりだ」
なぜだか嬉しそうに笑いながら宣言する。
「さて、ここが研究所だ」
俺達が案内されたのは学院内でも外壁に近しい場所だった。
(寂れているって言って方が正しいか)
なにせあるのはボロボロの家が一つだけだ。
「ロザミアは学院長の孫なんだよな?」
「そうよ」
「下手に衝撃を与えれば、すぐにでも崩れそうなのだが…」
身内贔屓がないという点では組織の健全さがうかがえるんだが。
これは正直どうかと思う。
「まぁ外見は仕方ない、雨風凌げて、実験できる環境であればいいのだから」
「………本当は?」
「私みたいなよくわかんない研究しているところにお金が回ってくると思う?」
納得だ。
「その分、設備には金をかけているから十分だと思うよ」
建付けの悪い扉に苦戦しながら言われても説得力がない。
家の中には大きな部屋が一つと、台所がある小さな部屋が一つだけしかない。
「さぁ、入ってくれ、ああ、機材には触れないようにな」
大きな部屋にはすべての壁に何かのメモ用紙が張っており、どれだけ思考を巡らせたのかが見て取れる。
中央に置いてある巨大な机には科学器具などがずらっと並んでいる。
「それには一切触るなよ、一切だからな」
ロザミアは書類の山を崩し、一つの冊子を持ってくる。
「これ、明日までに全部目を通してくれ」
「……これをか?」
渡された冊子は辞典と言っていいほどの厚さが出来上がっている。
「これは、今まで私が行ってきた実験のまとめだ」
『身体強化の魔力量の違いにおける効果研究―――』
『魔物解剖による魔力反応の詳細―――』
『各魔法学による、魔力の操作方法とその流れ―――』
『身体の魔力自然回復の調査書―――』
『身体分離での魔力操作―――』
『他者への魔力供給について―――』
『各属性の魔力の形跡―――』
『なぜ魔法が使えるのか―――』
『レベルアップ時のステータス上昇に魔力の関わりについて―――』
etc、etc、etc…
軽く冊子に目を通すだけでも膨大な文字の数が見える。




