詠唱の役割
「正解。ではなんで詠唱は存在するの?」
「それは技の発動と同じような物だろう」
スキルに魔法が存在し、なおかつ十分なスキルレベルを持ち合わせているのなら、声に出し、読み上げることで、魔力が勝手に動き詠唱の魔法を勝手に使用してくれる。
もはや一種の技といっていいだろう。
「それも正解、なぜだか魔法スキルを持つ人は詠唱するだけで自身で魔力を操作することなく勝手に魔法が組みあがってくれる」
「……いい加減この問の意味を教えてくれ」
すると笑いながら手を広げる。
「これらの問を答えられ、なおかつ疑問を持つことができる、素晴らしい。もし魔力に少しでも面白さ、興味を引かれたのならその研究室の門を叩きたまえ」
そういい、最後まではぐらかされた。
マナレイ学院はクメニギスの王都、クメルスへは約十日ほどかかる。
道中では様々な街によれるので宿をとり、時には安全な場所で野宿する。
もちろん、その際にはロザミアの雇った護衛がおり、俺たちが火の番をすることなどなく、快適に過ごすことができた。
「あれが王都クメルスだ」
ロザミアの指差した先では楕円形に伸びた城壁が見える
「あの塔は?」
長い城壁の内側には城のほかに12本の大きな搭が見える。
「あれは魔法搭、あの塔が存在している限り、この都市が攻撃されることはまずない」
話を聞くとあそこの搭自体が大規模な魔術展開の触媒になっているそうで、容易に戦場を覆せる魔法を発動させることができるそうだ。
城壁の中に魔法搭は存在しており、外壁を越えなければ搭へとたどり着くことができなく、搭を壊さなければ外壁に近づくことすら困難になる。
(攻め落とすなら、包囲して兵糧攻め…だけどあの魔法搭の射程が不明なため包囲網が形成できない可能性がある)
ある意味では完璧な防衛線ともいえる。
「私は少し門番と話してくるから、待っていてくれ」
門に近づくとロザミアは外に出ていく。
「…すごいですね」
リンが魔法搭を見ながらつぶやく。
「そうだな、これがあればこの都市が落ちることはまずないと考えていい」
「ですが、魔力を切らすまで使い続ければ、ただの搭と変わりのないのでは?」
「そう思いたいがな」
魔石を膨大に蓄えているのであれば、生半可な消耗では無力化できないだろう。
「お待たせ、それじゃあ学院に向かおうか」
馬車が門を通り過ぎ、街の中を進んでいく。
クメルスは王城とマナレイ学院を囲む楕円のような形をしている。
そのまた城壁から少し進んだところには高くそびえたつ魔法搭が存在しており、存在感を誇示している。
現在は学院と城がつながる大通りがあり、そこを進んでいる。
「面白い都市だな」
都市のいたるところで魔法が使われている。
屋台では火魔法を使い豪快に肉を炙って、、伸びすぎた枝を風魔法で切断し、畑では土魔法を使いひとりでに畑が耕されていき、それが終われば水魔法で畑全体に水撒きが行われる。
「ここでは約9割の人が魔法を使えるからな、魔法がいろいろなところで使われているのさ。ほかの町ではもう少し魔法を使える人は少なくなるよ」
「それでも魔法が使える割合が高いな」
魔法が使えるということはそれだけ教養が高いことを意味する。
グロウス王国でもよくても人口の3割しか魔法を使うことはできないだろう。
ネンラールに関してはもっとひどい。
そんな街の情景を見ながらどんどん人の少ないほうへ進んでいく。
「なんで人が少なくなっているんだ?」
学院らしき場所に近づくほど人気が少なくなっていく。
「まぁ、危険だからね」
ドォン!!!!!
ロザミアの言葉と共に何やら爆発音が聞こえてくる。
「待って!これは攻撃じゃない!!」
隣を見てみるとリンが刀を抜きかけ、ノエルが糸を出していた。
「じゃあ、あの音はなんですか?」
「少し待って……あ~あそこは火魔法研究所だね、新しく魔法を作ったはいいけど暴発でもしたのかな?」
窓から煙の上がっている方を見て、予想を立てている。
「……一つ聞くが、学院ではあのようなことが日常で起きるのか?」
「まさか、あれはごく一部の攻撃体な研究所が無茶をする時ぐらいだ」
「死人は?」
「死人は出たことがない」
俺も煙が上がっている方を見る。
「どう考えても無事じゃすまない爆発だったが」
「……たとえ死にそうになっても、治せれば死んだことにはならないからね」
馬車は学園内に進んでいく。




