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国境を超えると

キビクア領とクメニギスの国境は幅広い谷によって形成されている。そこは幾重もの谷が存在しており、その深さは底が見えないほど、備えなく入ろうとしたものには必ずと言ってもいいほど死がやってくる場所になっている。


ここを渡るには一度谷を降りて渡るか、作られた橋を渡るしかない。


そして国境はちょうどその橋の上となっている。









「次の者!!」


最後の谷の橋では国境を守る騎士団が見張りをしている。


「失礼だが、この馬車は?」

「こちらはゼブルス家嫡男、バアル様のお乗りになっている馬車です」

「なるほど、目的はなんですか?」

「今年からマナレイ学園の留学ですので、そのために」


馬車の外で御者とクメニギスの兵士とのやり取りが聞こえる。


「ちなみに入国してからどのようなご予定を?」

「オウィラの町にマナレイ学園の使いの者がきているそうなので、そこで我々ゼブルス家の兵士は戻ってくることになっています。残念ながらバアル様の予定となると我々には不明です」

「ふむ、ありがとうございます。では入国証を発行いたしますので少々お待ちください」


先ほど御者が言った通り、最初の町に訪れるとそこで、今回の護衛とはお別れだ。


そこから先はマナレイ学園の使者と行動を共にしていくことになる。


「失礼します、どうやら少々お時間が必要なようです」

「わかった、どれくらいか聞いたか?」

「この人数ですと、一刻は必要になるとのことです」


つまりは30分程度か。


「それぐらいなら問題ない、さすがに一日とか言われたらどうしようかと思ったがな」


ということで30分ほど待つことになるのだが。


「「「………」」」


俺は本を読み、リンは刀の手入れをし、ノエルは目を閉じてじっとしている。


誰かがしゃべることなどなく、ただただ静謐な空間が出来上がっていた。










コンコンコン


しばらくすると扉がノックされる。


「バアル様、通行許可証が来ました」

「わかった、では出発しろ」

「はい」


ということでようやく橋を渡ることができた。


それから1日かけてようやくオウィラの町に到着する。


「では、皆は宿で待機していてくれ」

「わかりました」


俺たちの馬車だけは宿の進路を外れて領主の屋敷に向かう。









「お待ちしておりました、グロウス王国ゼブルス公爵家嫡男、バアル・セラ・ゼブルス様で合っていますでしょうか」


領主の館に入ると、すぐさま執事がやってくる。


「馬車の紋様を確認すればわかるだろ?」


ゼブルス家の紋様は二本の麦に大きな翼の生えた蛇が描かれている。


(蛇ってどう考えても豊穣とは真逆のイメージなんだけどな)


前世でもあったが動物のイメージとご利益のイメージが合うわないものが多々ある。


(どう考えても父上と蛇って合わない……)


どちらかと言うと子豚や太った猫といったイメージの方がわかりやすいだろう。


「これは失礼しました、それではご案内します」


館内に通されると応接室に通される。


(……男爵としては可もなく不可もなくか)


室内や道中の装飾、ここに来るまでの町の活気から平凡という評価になる。


(とはいっても表面上だけの評価だからそこまで明確にはできないな)


とりあえずは出された紅茶を飲みながら時間が過ぎるのを待つ。


「いや~お待たせしまして申し訳ありません」


部屋に入ってきたのは、日焼けした肌に幾重にも傷跡が付いている、現役バリバリの軍人のような人物だ。


「……オウィラ男爵で合っているか?」


貴族のイメージと離れすぎてて、こう聞いてしまった俺は悪くない。


「はい、ゴルト・マク・オウィラと申します」


そう言って綺麗な礼をする。


「ああ、すまん、さすがにこっちの貴族の顔は把握していなくてな」

「わははは、儂の顔つきからしたら皆同様に驚きますよ」


何事もないように笑ってくれる。


それから雑談でお互いの距離感を確かめる。


「儂は平民上がりの貴族ですので、貴族の何たるかなど知らないのです。今も知り合いに人だけ送ってもらい、何とか領地を経営しているにすぎませんぞ」

「別にそれでもいいと思うがな」

「ほぅ」


男爵は続きが聞きたいという表情をしている。


「貴族に必要なのは領地を繁栄させること、それさえできればあとはどうでもいい些事でしかない」

「はは、そうか些事であるか」


すこし嬉しそうな表情をする。


「もちろん、その繁栄する手段としてほかの領地と友好的に接して盛り上げていくという手もある。というかほとんどがその方法を取っているんだがな」

「これは、耳が痛いですな」


反応を見る限り、そちらは上手くいっていないようだ。


「できれば、そちらの面でもご教授してもらえば」

「こればかりは頑張れとしか言えない」


隣接している貴族が血統貴族ならば平民上がりの男爵を快くは思わないだろう。


こればかりは時間が立って一応でも貴族として認められるほかない。


逆にある程度好意を持ってくれているなら、むしろ俺が言うことは何もない。


人材を派遣してもらっているんだ表面上だけでもきちんとはしているから大丈夫だろう。


「それで、本題に入りたい」

「おっとそうでしたね、そろそろ来るはずなんですがね」


アウィラ男爵がそう告げると同時に、扉が開かれる。


「こちらにマナレイ学院行きのバールさまはいるかな?」


入ってきたのは紫色の髪を後ろに無造作にまとめている女性だ。


服装もどこか着崩れていている。


外見からして10代後半ぐらいの年齢だろう


そして何より、違和感があるのがその気配だ。


「俺がバアルだ」

「…へぇ~、君もか」


相手側も俺の気配に気づいたようだ。


「今回、学園からの使いに抜擢された、ロザミア・エル・ヴェヌアーボだ。別段とかはいらないロザミアとでも呼んでくれ」

「ヴェヌアーボ?」


聞いたことがない家名だ。


「君は他国の大物だろう?私たちの国が荒れているのは知っているかい?」

「多少は」


言いたいことが何となく理解できた。


「ヴェヌアーボ伯爵家は遠縁だけど学園創始家の縁戚だ。そしてどの派閥にも入っていなくて、政治にも関与しない、だから私が選ばれたんだ」


俺は今この国からしたら近しくなりたい存在、そこで使者に選ばれた者は距離を近づけることができる。


だが学園の理念から政治と結びつけるのはどうか、ということで政治にもかかわっていない自分の家の家系から使者を選出したということらしい。


「ということでよろしく頼むよ」

「こちらこそ」


すると顔を近づけて耳元でささやく。


「よかったら君についても教えてくれよ」

「機会があったらな」


これにて顔合わせは終了した。

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