予期せぬアルカナ
『あははははははは』
「笑いすぎだ」
通信機の先で笑い声を上げているのはノストニアの王、アルムだ。
「それで、幻覚の話だけど」
『ああ、それは君のアルカナが拒絶しているんだ』
「拒絶だと?」
『ああ、契約は一人一つが限度なんだよ。そしてほかのアルカナは使用できなくなる』
「そんなこともらった情報にはなかったが?」
『いやだってさ、こんな短期間に他のアルカナ、それも所持者がないものを見つけると思う?普通に考えてあり得なかったからさ』
まずありえないだろうから書かなかったらしい。
「じゃあ、俺には他のアルカナは使えないんだな」
『その通り』
となると大鎌は本当に亜空庫の肥やしになるな。
『でもすごいね、君の周囲に【定められた者】がいるのか』
おっと、また、聞いたことがない言葉が出てきた。
「定められた者ってのは何だ?」
『うん?アルカナに認められた者のことを言うんだよ』
「……それじゃあまるで、アルカナに意志…が……」
“汝、神秘の十六番目たる、『塔』の契約者足りえるか”
“汝に我が神秘の欠片を与える資格を見た”
“破壊、破滅、崩壊、災害を引き起こす『塔』の神秘アルカナ、汝との契約を遂行する”
【資格を見た】つまりは認識できているということ。
それは意思を持っている言い換えてもおかしくない。
『うん、あるよ。アルカナは自分で契約者を見つけに行くんだ。かく言う僕も、君もね』
ダンジョンの報酬で出たのだが、それすらも必然だと言う。
『要点だけで言うと、君は他のアルカナは使えない、君の近くにそのアルカナの契約者が現れるということさ』
「根拠は?」
『古文書に書いてあっただけだからね、信じるも信じないもご自由に』
「……」
そう言われたら何も言い返せない。
「ちなみにだがアルカナの契約者を探す方法とかはないか?」
『う~ん?そんなこと聞いたことないね、コンコン、やば、じゃあ僕はこれ、陛下!!あれほど書類をまとめ』ブツン
「……」
最後にアルムの本性を垣間見た気がする。
「確かめるすべはないか………仕舞っておこう」
この事はいったん忘れよう。
(忘れるなら寝るのが一番だ)
大鎌を仕舞ったら、そのままベットに入り込む。
「さて、準備はいいな?」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
翌朝、全員を招集してみると誰一人として酔いつぶれていなくて安心した。
「では、鐘が2つなるタイミングで出発する、それまでに各々積み込みを済ませておけ」
指示を出し、出発の準備をする。
「バアル様」
振り向くとレイン嬢が来ていた。
「昨日ぶりですね、今日はどうしましたか?」
「はい、せっかくなのでお見送りをと思いまして」
「ありがとうございます」
「それと私からの一つお礼を」
「お礼?」
はて?何かした覚えなどないけど?
「私が騎乗したことを黙ってくださってありがとうございます」
ああ~その件か。
「もしかしたら、明日に大目玉を喰らうかもしれませんよ?」
「いえ、父ならばすぐさま行うでしょう、それが無かったので約束を守ってくれたのがわかりました」
どうやらあの事がばれると、本当に困るんだな。
「そこまで怒られたくないなら騎乗しなければいいのでは?」
「……まぁそうなんですが」
レイン嬢の歯切れが悪い。
「お嬢様は楽しんでおられるのですよ」
「楽しむ?」
「はい、幼少の頃は本当にお転婆で、目を離したすきにいなくなり、探し出すと厩舎にて馬に乗って遊んでおりましたぐらいです」
「しぃーーー」
レイン嬢はすぐさまメイドの口を塞ごうとするが身長が足りず片手で抑えられている。
「へぇ~」
「うそ!嘘ですからねバアル様!」
後ろを見るとメイドさんが全員首を振るっているので嘘ではないのがわかる。
「談笑のところ申し訳ありません」
「どうした?」
「準備が整いましたので報告を」
「そうか、ではレイン嬢この2日はお世話になりました」
「いえいえ、バアル様の旅のご無事を願っております」
こうしてキビクア領からクメニギスに向けて出発した。




