馬鹿だ……馬鹿がおる
それからはイドラ商会の各幹部を呼び集め、俺がいない間の魔道具販売やその販路などを話し合う。
結果、魔道具の生産を少しだけ抑えて、国外に重点的に販売することになった。
(クメニギスでも魔道具が充実すれば、俺も魔道具が使いやすくなる)
これには裏の騎士団にも要請し、スムーズに事態が動くようにした。
次にクメニギスへの経路だが、今回は陸路を使うことになった。
理由は、まぁ、その、ごく個人的な理由だ。
「じゃあ、これを頼む」
「はい」
文官に馬車と送迎用の騎士団の手配、食料の準備の要請書を渡し、実行してもらう。
「あとは」
『ふぁ~~~久しぶりに起きてみたのだが、何にも変わっておらんのう』
ひさしぶりにイピリアが出てきた。
ここ数年でわかったのだが、精霊は呼び出さない限り、基本寝ていることが多い。
さらには時間間隔が人とズレているため長期間寝ていることも普通にある。
イピリアが起きたのは実に3か月ぶりだ。
『あいも変わらず、かみっぺらとにらめっこか、ご苦労じゃの』
「これが俺の仕事だからな」
『もっとこう、魔物相手に戦闘とかせんのか?お主の年頃の人族はそう言うのにあこがれるのだろう?』
「たしかにそういう人もいるが俺はパスだな」
既に十分な地位は得ている、危険を冒すつもりはない。
『かぁ~~つまらん、オノコであるなら少しは偉業を成し遂げようとは思わんのか』
「知ったことか」
手を動かし、手紙を用意する。
『まぁどっちでも良い、我はお主の魔力をくわせてもらえればそれでいい』
「働いてもらうときは働かせるぞ」
『問題ない、その時にはお主の魔力をもらい受け魔法を発動させてやる』
「とは言っても戦闘でお前を呼び出す機会などほぼないのだが」
『……』
イピリアのエリマキがしぼむ。
(正直なところ、魔法戦に持ち込むのなら、さっさと『飛雷身』で近づいてバベルで殴るのが楽なんだよな)
『拗ねるぞ、儂、拗ねるぞ』
「まぁこれから魔法の国に行くんだ、活躍できるときはあるさ」
『…うむ!』
励ますとエリマキが開く。
「そう言えば、お前の特性ってなんだ」
今の今まで不自由がないので忘れていた。
『今かい……儂の特性は【雨乞】と【沈下】じゃ』
……ショボいと思うのは俺だけか?
「効果は?」
『【雨乞】は雲を呼び雨を降らせる特性で、【沈下】は地面を液状化させてい地上にある物を地中に埋める特性だな』
へぇ~…………あれ…………これって。
「イピリア、お前が地中深くにいた理由って………まさかとは思うが自分の能力の誤作動か?」
『……』
沈黙しているのは、もはや自白と変わらない。
『仕方ないじゃろ、寝ぼけていたのじゃ!!』
………寝ぼけて、自分を地中深くに沈めるって
「どんなアホだよ」
『アホいうな!!』
小さな体で威嚇しながら目の前を飛び交う。
イピリアを無視して書類の作成を続ける。
しばらくしてつまらなくなったのか肩に乗って書類をのぞき込んでくる。
『何をしているんじゃ?』
「ん?クメニギスに行く際に通る、貴族への手紙だ」
一応は通過するのだ、きちんと断りは入れておく必要がある。
『めんどいものだな』
「まぁな」
無断で通るという手もあるのだが、俺にも立場という物がある。
『まぁがんばれ』
「投げやりだな」
『儂は人族のことなど知らんしな、まぁ命の危険があれば助けてやるわい』
「呼んだときは素直に出て来いよ」
『気分次第じゃの』
とりあえずは大人しくしてくれているので助かっている。
(アルムに忠告されたが、そこまで厄介者でもないな)
「「こっち!」」
俺は幼い手に掴まれながらゼウラストの町を探索している。
「わかっているから少し待ってくれ」
二人を抱きかかえ、行動を制限させる。
「あれ!いい匂いする!」
「する!!」
二人が指差した先はもはや屋台で定番となった綿飴の屋台だ。
「ラインハルト」
「買ってまいります」
ほほえましいと顔に書いてあるラインハルトにお使いを頼む。
事の発端は今朝になる。
今日は久しぶりに書類がひと段落していたので朝からソファで寝ていたのだが、そこに
「「ど~~~ん!!」」
「ぐっ!?」
二人がお腹に飛び込んでくる。
「「きょうやすみ~?」」
「あ、ああ」
「「じゃあ、どこかいこ!!!」」
それからは気を反らそうとすると拗ねるし、泣き出しそうになるしで外出しざるを得なくなった。




