は?え?なんで?
「では来年からマナレイに行くのか?」
裏の騎士団の定例会が終わると、陛下に呼び出された。
「そのつもりです」
「ふむ……エルドに付くというわけか」
当然ながら西側、ひいてはクメニギスはエルドの色が強い、陛下の判断も流れではそうなる。
「そうではありません、招待され、そこに興味が引かれたのですこし知識を学びに」
もちろんそこは否定する。
だが裏で多少の接触があるのはなんとなく理解できているのだろう。
「ふむ、まぁよい、だがこの時期か」
「何か問題がおありですか?」
「多少な………いや話しておこう」
意外だ、こういう物は胸に秘めると思っていたんだが。
「バアル、クメニギスの内情はどこまで知っている?」
「第三王子が出家し継承位争いを抜け出したことは存じています」
残念ながらそこまで大きな情報は持っていない。
「さきほどは定例会どころじゃなかったからな」
「ではそこからは私が説明しましょう」
陛下がグラスに視線を向けると一つの紙束を渡してくる。
「まず王家には現在第二王子、第三王子、第四王子、第五王子、第一王女、第二王女、第三王女が存在します」
紙には7人のことが書かれている。
「継承位争いを脱落したのが、第三王子と第二王女」
「理由は?」
「第二王女は国内の貴族と婚姻し、継承位を返上しています。第三王子には神光教に入信したので継承位を返上ですね」
二人に関しては完全に継承位争いから抜け出したそうだ。
「他の五人に関してだが、泥沼と言うにふさわしいな」
「…確かに」
武力も人材も見る限りでは綺麗に五等分されている。
それこそ誰かが意図して組み合わせたかのように。
「……気持ち悪いな」
「同感だ」
グラスも勘づいている。
「それでそれの何が関係が?」
「実はなクメニギスの一定勢力にエルドが近づいた」
「……はぁ?、おっと、失礼」
思わず言葉が出てしまった。
「それでどこの勢力ですか?」
「……元第二王女派閥だ」
「…………………はぁ?」
数分間思考が止まる。
「え?なんで?」
どう考えても近づく意味が分かんない。
「わからん、裏の騎士団でも引き続き調べているが、まったく理解はできない」
グラスでもこの判断はよくわかってないらしい。
「そこでお主に頼みだ」
陛下の御声がかかると跪く。
「おそらくクメニギスに行けば、エルドの方から連絡が来る」
「意図を確かめてほしいと?」
「その通りだ」
………裏の騎士団ですら、エルドの意図を測り切れていない。
であれば最も接触してくる確率が高い存在をつかって意図を確かめるということだ。
「……陛下は二人を放任しているのではないのですか?」
今まで継承位争いに干渉してこなかったはずだ。
「ああ、基本はその方針で行こうと思っていたのだがな」
すると俺を見る。
「まぁ今回のはあまりにも意図が不明なので、少しだけ不安に思う、とでも考えてくれ」
「わかりました」
ということでクメニギスの訪問理由にエルドの動向調査が追加された。
「それは面白い話だね~~」
夜、父上に王宮でのやり取りを説明する。
「エルド殿下が力のない派閥と接触、その意味が不明なんです」
「その派閥は今どうなっているんだ?」
「一応、勢力を維持したまま宙に浮いているそうです」
まとまっていた頭が消失、となれば当然解散が普通。
だが既にほかの5派閥と敵対してしまっている、となると今更敵派閥に鞍替えはできない。
けど一人でいれば間違いなく攻撃される、だから徒党を組み、守るようになっているのだろう。
なので勢力として成り立っているとは言えない。
「じゃあ嫁いだ先は?」
「何の変哲もない子爵家です」
普通に領を納めている子爵家だ。
別段騎士団が強いということもなく、金を持っているわけでもない。
「??恋愛結婚かな?」
「おそらくは」
争いが嫌で逃げたとも考えられるが、そんなことはどうでもいい。
「では嫁いだ第二王女には本当に何の力もないのだな?」
俺と父上が注目しているのは何かする力を持っているのかどうかという点だけだ。
「それだったらエルド殿下の行動がさらに不思議だね~」
「ですね」
エルドはリターンが全くない相手に近づくほど余裕があるわけではないはずなのだが。
「………にしても」
父上は面白そうな顔つきになる。
「バアルの行く先ではいろんなことが起きるね」
「…………言わないでください」
今思えば『君の人生で楽しましてくれるなら』という言葉が原因じゃないのか?
「どうだい?いっそ止めて家に帰ってきたりは?」
「………それ、仕事を押し付けたいだけですよね?」
視線が外れた。
「では冬季休校にはアルベールとシルヴァと遊んでやってくれ」
「そうしますよ」
その二人は長く構わないと泣き出すから始末に置けない。




