何が綺麗で何が汚いのか
「へぇ~、マナレイ学院に留学か~」
同好会の部屋でフルク先輩に留学のことを話す。
「ええ、なので俺が学院を卒業するまでは研究機関に関しては先輩一人でやってもらいます」
すると書類を整理していた先輩は固まる。
「うぅ~~ん」
セレナが同好会の机で頭を抱えている。
「行ってみたいけど、今からの学園が面白いのに」
「別に無理に来る必要はないぞ、何だったら夏季休校とか使って遊びに行ってもいい」
「あ、そうですね」
セレナは案の定、学園に残るつもりだ。
「じゃ、じゃあぼくはどうすれば!?」
正気に戻ったフルク先輩が慌てる。
「とりあえず、同好会同様にスキルについて調べていてください」
「わ、わかった」
そのまま資料整理に精を出してもらう。
「にしても色々あるのね~」
クラリスは研究室の一覧を見てつぶやく。
「で、どこにするの?」
「そうだな、『雷撃研究』や『魔法陣研究』『刻印研究』『魔獣研究』………いろいろあるな」
約100もの研究室の名前が記載されている。
「どのようにして選ぶのですか?」
リンが一覧をのぞき込みながら聞いてくる。
「そうだな、もちろん有益そうなのがいいんだが」
「有益ねぇ~、なら雷系の研究所?もしくは魔道具に仕えそうなところ?」
「そうだな………」
一覧を除いていると最後に面白そうなのがあった。
「……『魔力研究室』?」
研究室の説明を見てみる。
『
【魔力研究室】
所属人数:一名
≪研究内容≫
スキル、技、魔法、生活の様々なところで使用されている魔力。これは一体何なのか、それを知るための研究を主な活動にしています。
』
「魔力を知る、か」
スキルの時、同様かなりの興味を惹かれる。
「また面白いものに惹かれているわね」
クラリスは何が興味を引いているのか理解できないみたいだ。
魔力、それは不思議な力だ。
なにせ人をまるでアニメや漫画のように動けるようにしてしまう。
魔法という物の原料であり、生物が生きているうえで絶対に関わってくる。
(摩訶不思議な力の源を知る、研究には十分な価値がある)
「そうだね~技にも魔力が使われているから、研究機関としても重要になると思う」
資料を片付け終わったフルク先輩が話に加わる。
「それにいまこの国は少し不安定だからな」
「そうなの?」
よくわかっていないセレナに説明する。
「まず、この国が不安定の理由は、エルドとイグニアの王位争いだ」
「はい、先生!」
「……説明を続けるぞ」
初等部は子供同士のつながりを持ち、どんどん派閥を広げていくので、表立ってそこまで政争が激化することはない。
だが中等部となると話は変わる、全生徒が同じ学び舎にいないことから、目的が子供のつながりではなくどれだけ実績を作れるかといことにシフトしていく。
貴族への援助もそのうちの一つ。
餌であり実績作りも兼ねている。
表の部分ではそれでいい、だが当然この世界は綺麗なところだけで出来ている訳じゃない。
裏側では敵派閥の勢力をそぎ落とす工作を何十にも行っている。
「でもそれって中立派閥は関係なくないですか?」
そうでもない、この派閥はいわば決めあぐねている集団でもあるんだ。
ゼブルス公爵家は国の農業を担当しているため、国全体とつながりがあり、決めかねている。
だがその他の貴族は違う、政争できる家格や財力がないか、ただ決めあぐねているか、もしくは決めたくないだけだ。
ならば当然、勧誘や囲い込みをしたいだろう。
だが南部を勧誘、囲い込みしたいとなるとゼブルス家が邪魔になる。
「なんで?勧誘とかなら別に問題ないんじゃない?」
「……セレナ、まさかとは思うが、貴族の勧誘が簡単な話し合いで済むと思っているのか?」
派閥に入るとなると当然、ある程度の手土産が必要になる。
お互い全力でぶつかり合っているので、甘い蜜だけ吸おうなんてことは容認しえないからだ。
だが、そんな手土産を持ってまで派閥を移るなんてリスクを中立派は犯すことはまずない。
となればどうするのか、それは自分たちで頼らざる状況を作り出し、頼ってきたらそれ相応の要求すればいい。
(やり方が893と同じだな)
これが今起きている部分だ。
手段としては、周囲の食料をかき集め、その領地の相場を高くしたり、なぜだか盗賊が蔓延ったり、婚姻により家を乗っ取ったりなどなど。
そして限界に来た時に手を差し伸べる。
派閥に入ればすべて解決してやると言ってだ。
もちろんそれ相応の対価を払う必要がある、金が無ければ人を、人が無ければ物を、ものが無ければ土地を、土地すらなければ利権を、といった具合に。
当然そんなことをしてしまえば、南部の経済や秩序と言ったものが欠落してしまうため南部を統括しているゼブルス家からしたら防がざるを得ないわけだ。
その最たる抑止力が魔道具停止だ。
そしてだからこそ、ゼブルス家、引いては俺の存在が邪魔なんだよ。




