セレナの金策
「じゃあ、後は頼むぞ」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
あの後、撮影機を量産し、専用の台を用意して、ようやく効率化ができた。
まずは台の定位置に紙を配置、その後、台に固定されている撮影機のボタンを押す。
パシャ!
音と光が起こった後、紙を変えて、再び、ボタンを押す、この繰り返しだ。
これならば一回の作業に、十秒、さらには紙を置いてボタンを押すだけなので誰でもできる。
取られた写真はデータとなり『ニュクス』に転送される。
後は項目ごとの情報を『ニュクス』自身が読み取り、集計する。
これならば台をどれだけ量産できるかでかなりの時間短縮が行われる。
「それじゃあ、後は頼むぞ」
「はい、お任せください」
執事長にこの場を任せて、俺は自室に戻る。
「あら、仕事は終わったのかしら?」
部屋に戻ると、そこにはノエルに給仕をしてもらいながら、ソファで本を読んでいるクラリスがいた。
「いや、何でここにいるんだよ?」
「なんでって?婚約者の部屋なんだから私の部屋同然でしょ?」
「プライバシーって知っているか?」
クラリスは何のことかしら、と言いながら横になり、本を読む。
「仮にも姫なんだから、その態勢はどうなんだよ」
「いいの、いいの、誰も気にしないし」
これは何を言っても無駄と思い、椅子に座り、机の上に置いてある書類に目を通す。
「すまんノエル、俺にも紅茶を頼む」
「かしこまりました」
ノエルは紅茶を取りに部屋を出る。
「ん?そういえばセレナは?」
クラリスと一緒にいることが多いのだが、別行動か?
「ああ、セレナは―――」
うぉおおりゃああああーーーーーーーーー!
ブヒィイーー!
セレナの掛け声と共に豚のような悲鳴が聞こえる。
「いや、森の中で何やっているんだよ」
ゼウラストの近くにある森の前で立っていると、先ほどの掛け声と悲鳴が聞こえてきた。
「ほら、少し前から休みだったじゃない?その間にセレナがリンと一緒に冒険者ギルドに登録したのよ」
ちなみにリンにも休暇を与えているのだが、いつもと変わらず護衛をしている。
「と言うことは何かのクエストをやっているのか?」
「みたいよ」
「うぉおおおりゃあああ、金になれ!!!!!!」
欲望丸出しの掛け声が響いてくる。
しばらくすると奥からガラガラと何かを乗せた台車がやってくる。
「あれ?バアル様?なんでここに?」
セレナが体に似合わない大きな台を押しながら森から出てきた。
台車にはオークが十匹ほど乗せられている。
普通なら運べないはずなんだが、身体強化でこれ程度なら運べるようになっている。
「いや、ひと段落したんだが、何やっているのかと思ってな」
リンは休暇にも関わらず護衛をしてくれているし、ノエルも変わらず給仕を行ってくれる。
本当に休日と言えるのはセレナぐらいだ。
「理由としてはリンに休暇を見せるためだな」
「私ですか?」
「ああ」
するとセレナも何かわかった顔になる。
「リンさんは仕事人間ですからね~………よかったら一緒に来ますか?」
「………あわよくば手伝ってもらおうとか考えてるな」
そういうと明後日の方向を向きそのまま台車を進めていく。
冒険者ギルドに到着すると、台車を持って中に入る。
そしてもろもろの手続きを終えると。
「はいセレナちゃん、クエスト報酬とオークの買い取り額よ」
「ありがとうございます!!」
カウンターに乗せられた銀貨13枚を受け取り、セレナは上機嫌になる。
「そっちはお友達?」
受付嬢セレナの後ろから眺めている俺を見て微笑んでいる。
「はい、セレナがどんな感じで働いているか見て見たくて」
すると受付嬢は饒舌に話し始める。
なんでも100年に一度の逸材だとか、このまま行けば成人頃には英雄みたいに名前が広がるなどなど。
「でもセレナちゃんは日帰りできるところのクエストしか受けてくれないのよね」
「まぁ、雇われの身ですし」
「でも日給で大銀貨出るところなんてそうそうないわよね?」
いや、全然出ているんだが。
今のところ給金はリンに金貨3枚と大銀貨7枚、セレナに金貨2枚と大銀貨3枚となっている。
ノエルに関しては差別化が無いようにゼブルス家の侍女見習いと同じ給金にしてある。
「もしよかったら僕たちも登録しておかない?」
登録だけしておけば、好きな時にクエストを受けられるし、何か採取してきた物を買い取ることもできるそうだ。
「それにギルドからの除名は問題行動に対してのみよ、長期間クエストを受けなくても問題ないわ」
「………何か隠してないか?」
ここまで勧誘する理由が彼女にあるだろうか。
「いや~無いわよ」
そう言って笑うが、その裏に何かあるのは見て取れた。
「………セレナの友人である俺たちが冒険者になって、本格的に始めだしたらセレナも仕事を止めて冒険者稼業に精を出してくれる、か」
ッピク
図星のようだ。
「まぁそう言うことなら、登録だけしておきますよ、お前たちはどうする」
「そうですね、しておいても問題ないですね」
「私も大丈夫なの?」
「ええ」
ということで俺たちは渡された。
「じゃあ、ここに名前、出身地、年齢、一番得意な武器を記入してね」
ということですべてを記入し、終わると紙を持ってそのまま奥に行く。
「にしてもセレナが逸材ね」
普段のあいつを知っているので何とも言えない。
「いえ、まぁ普通にかなりの実力がありますよ」
「そうね、この中でセレナ以上の魔力の持ち主はいないわね」
「それに全員が武に精通しているわけではないですし」
「おい」
他愛ない会話をしていると。後ろから声を掛けられる。
振り返ると、同年代ほどの少年二人が近づいてきていた。
「なんだよ」
「いま、セレナの知り合いだって聞いたが、本当か」
テーブルでほかの冒険者としゃべっているセレナを指さす。
「ああ、それがどうした」
すると気安く肩を組んでくる。
「なぁ、何とか俺達と組んでくれるように説得してくれないか?」
「………はぁ?」
とりあえず腕を外す。
「そんなの直接言えばいいだろう?」
「いや…」
「まぁ…」
二人は何やら歯切れが悪くなる。
すると受付嬢が戻ってくる。
「お待たせ、あら?」
二人を見て、変な顔になる。
「二人ともまだ懲りてないの?」
「何かあったのか?」
すると二人は慌てだす。
「この二人はね、セレナちゃんが登録しているところに来て『お前みたいなガキには無理だ』とか言って挑発したのよ。で、そのあとセレナちゃんにボコボコにされてね~」
「ああ…」
なるほど話しかけにくい理由が出てきた。
「それとこれがギルド証ね。無くしたもう一度一からやり直しになるから気を付けてね」
カウンターに俺、リン、クラリスの名前が入った札が置かれる。
「はい、それじゃあどうする早速クエスト受けてみる?」
「いや、今回は登録だけにしておく」
セレナに戻ることを伝えると、今日の狩りは終了したらしく、共に帰路に着く。




