だめだ、全然足りない
それから終業式を終えると、すぐさま紙の資料や必要なものを馬車に詰め込んでゼブルス領に出発する。
「えっと、なんで僕が連れてこられたの?」
馬車の中には、俺、リン、セレナ、クラリス、ノエルともう一人、フルク先輩がいる。
「以前説明したじゃないか」
「えっとスキルの研究をするから夏季休校ゼブルス領に来てほしいんだよね?でもなんで僕が?言ってもそこまで優秀でもないよ?」
「実は、また夏季休校が終わるとスキルについての考察を発表することになった、長年スキルについて研究している先輩の力が役に立つはずだからだ」
「そっか、でも研究結果を発表か、緊張するな~」
そういって呑気に外を見ているのが少しだけいらだったので爆弾を落としてやる。
「そういえば、来年で卒業だよな?」
「そうだね、僕はそこまで優秀でもないからこれが終わったら職を探すよ」
「では後輩からの贈り物ということで先輩が結果を発表しないか?」
「僕が?」
「ええ」
研究結果を発表し、それが好評なら、知名度が上がる、そうすれば職も探しやすくなるなどいい言葉を並べてやる。
「うぅ、バアル君ありがとう、その役受けさせてもらうよ」
「いえいえ、では陛下の御前での発表を頼む」
「ああもちろ……………………………………………………………………………ん?」
言葉を処理しきれなかったらしく、かなりの長い時間固まった。
「ごめんもう一度言ってくれない?」
「だから陛下の御前で」
「へいか?平価?兵科?あれどっちの意味?」
「どちらでもない、グロウス王国国王アーサー・セラ=ルク・グロウス陛下のことだ」
すると再び凍り付く。
先輩が再起するまで資料を確認する。
それからゼブルス領の屋敷に着き、客室に案内されてもフルク先輩はフリーズしたままだった。
「それで、これはどういうことだ?」
そんな先輩を放っておいて、とある書類を父上に提出する。
「はい、騎士団のステータスチェックをさせてほしいのです」
「う~ん、非番の騎士や兵士のみなら許可しよう」
「それでいいです、お願いします」
条件を新たに加えると、父上はサインと公爵家の家紋を入れてくれる。
「では失礼します」
すぐさま扉をあけ放ち、移動する。
「いや、理由を聞きたかったんだが………」
執務室には何が起こったかわからず固まっている当主様の姿を何人かの執事やメイドが目撃したという。
それからすぐさまリンとセレナを引き連れて、様々な兵舎を回る。
「そこまで急がなくても」
「だめだ、研究のためのサンプルは多いほうがいい」
「どのくらい?」
「ゼブルス家で雇っている兵士や騎士全員、欲を言えばゼブルス領にいるすべての戦闘職にだ」
そういうと二人は驚愕の視線を向ける。
なにせゼブルス家の兵士は総数20万だ、約二か月の休暇期間があるとしても一日に3~4千人調べないといけない。
さらには鑑定のモノクルは俺の持っている一つと家にある一つなので文官を送り込み調べていてもらうなんてこともできない。
教会に調べてもらうという手もあるが、もちろん実費では兵士たちは納得しないしこちらが負担をすれば金がかかりすぎる。
もう一つさらに、父上の言葉で調べられるのは非番の兵士に限るとされている。
「こんな状態で急がないといけないに決まっているだろう」
説明してやると、理解はしたようだ。
だが感情ではやりたくなさそうだ。
「ほ、ほんとうにやるのですか?」
「や、やるならゼウラストの人たちでもいいのでは」
「バカか、百人に調べた情報と一万人調べた情報どちらがより精巧かは言わずともわかるだろう?」
ということで、さっそく一つ目の兵舎にたどり着く。
「だめだ、これじゃあペースが全然合わない」
一日目が終了した時点で、千人しか調べることができなかった。
「ば、バアルさま」
いつもは何も言わないリンでも今回は疲れたようだ。
「陛下に説明するのであれば、裏の騎士団に尽力してもらえばいいのでは?」
「それだと、功績が俺ではなく裏の騎士団になる、それはできない」
発表はフルク先輩にやらせるが、研究者の名前を俺にしなければいけない、もちろん協力者なども書かなければいけない。
「仕方ない、あの方法で行くか」
最悪を想定していた案を実行する。




