文句?は、筋違いだな
データを取るにあたって技を使用するということで目的の場所は『武術』学部なのだが。
「「「「「お~~~~」」」」」
何やらグラウンドで、歓声が巻き起こっている。
「おら『炎波』」
「『極光の聖盾』」
特大の炎の波が人影を飲み込もうとすると、一人を丸ごと包むようにオーロラが現れて、炎から防ぐ。
『ははは!』
「はぁ~~」
笑い声を無視して、俺はため息を吐きながらブレーキ役を探す。
「あら、ごきげんようバアル様」
「久しいな、ユリア嬢」
観戦席の最前線にブレーキがいた。
「なんでこんなことになっているんだ?」
「いえ、殿下がどうやらアークさんのユニークスキルに興味を持ってしまったようで」
何とか丸め込んで模擬戦をさせているようだ。
「(双方が合意しているのならいいか)それより、リンを見なかったか?」
「リンさんですか?先ほどこの会場を出ていくのが見えましたよ」
ということはちょうど入れ違いになってしまったのか。
「そうか、邪魔をし」
「そういえば、収穫権のオークションとはいい考えをお持ちですね」
この場を去ろうとすると後ろからそんな声が聞こえてくる。
「ああ、あれなら必ず標準的な利益が出るからな」
「ええ、そうですね」
ユリアは軽く微笑んでいるが、笑顔の裏では歯ぎしりでもしているのだろう。
「ゼブルス家での徴税した作物はどのように使用するのですか?」
つまりはオークションの分は諦めるが、税で集めた作物はどうするのか、と聞いてきている。
「そちらに関しましてはイドラ商会特製の超大型冷凍倉庫にて長期保存していますよ、いつ何が起こるのかわかりませんから」
暗に売る気はないと告げる。
「あらそうですか、ではもし何かあった際は援助を求めてもよろしいですか」
ユリアの言う何かとは食料不足も含んでいるんだろう。
となると食料不足で苦しんでいる領地からの要請には答えてくれるのか?と聞いている。
(痛いところを突きやがって)
その要請の間にイグニアの派閥が入れば、形だけ見ればイグニア派閥からの施しということになる。
それが狙いでユリアはこのようなことを聞いてる。
「それは、父上、ゼブルス家当主にご相談ください、おそらくですが陛下と協議したうえでの判断になるでしょう」
「陛下がですか?」
「はい、父上は農業大臣の地位も得ています、我が領地の備蓄はもちろん、その保存した物の中には国に何かあったときに放出する分も含まれます。もちろんこれには陛下の許可が必要です」
これは本当の話で備蓄の中には国が飢饉の際に使う分もあるのだ。
話を持って行っても、様々な理由で突っぱねられるだろう。
「……なるほど、そういえば我が領で何やら採掘量が減少傾向にあるのは御存じですか?」
言葉の裏に、鉱石を値上げするぞと脅している。
グラキエス家との条件は『市場価格よりも安く提供する』というものだ。
となると市場価格を上げてしまえば値段を吊り上げも可能になる。
「へぇ、そうなんですか、それは残念です」
だから何と告げるとユリアの眉が少しだけ動いた、おそらくは少しは牽制になると思っていたのだろう。
だが残念ながら、すでに満足な量の鉱物を仕入れることはできている。
それも当分の間、鉱石類を必要にしないほどにだ。
「もしかして魔道具の値段が上がったりしますか?」
「まぁ多少は上がるでしょうが、許容囲内でしょう。ああ、もちろん値上げの理由は公表させてもらいます」
今度はこちらが脅す番だ。
なにせ密約が表に出てない以上、外野からはグラキエス家がゼブルス家に圧力をかけているようにしか見えない。
それを受け入れずやむを得ずに魔道具の商品が値上がりをしてしまった。
さて外野はこれを見て何を予想するだろうか。
「……」
「では、私はこれで、ああ、もちろん約束は守りますので」
約束を破ったわけではないと言い張る。
最後に見たユリアの顔はすべてを凍らせるような笑顔だった。




