同好会へ
「おい」
声をかけたのは『スキル研究同好会』というところだった。
「は、はい、なんでしょうか」
俺の声で起こされた少年は涎を拭き、すぐさま姿勢を正す。
「ここは、何をしているんだ?」
「はいぃ、ご説明しますと」
すると足元から何かの資料を取り出す。
「ここは『スキル研究同好会』、名前の通りスキルについてを研究する同好会となっています」
そして資料を開き見せてくる。
「いままで不思議に思いませんでしたか?教会が有する『神鑑の眼』や『鑑定のモノクル』でステータスを見るとスキルというものが乗っています。ですが、それはどうやって決められているのか、どうやってレベルが上がるのか、なぜ習ったことがない技が使えるのか、と」
この世界ではスキルは常識だ。
常識であるがゆえに、誰も疑問に思わず恩恵を得ている。
前世なら、なんで足を動かせれば歩けるのか、といった感じにだ。
「で、どんな活動をしている?」
「今のところはほかの部活などに協力してもらいスキルについて観察しています」
スキルのレベル統計、使用できる技の種類と人員分布、スキルレベルは足りているのになぜだか使用できない技。
こういったもののデータを集めてスキルとは何なのかを解き明かそうと設立された同好会みたいだ。
「まぁ私が中等部1年の時に発足しただけなので、まだ二年しかたってないんですが」
そういって頬を掻く。
「……面白そうだな」
「「え?!」」
リンと少年は驚く。
「…ここがですか?」
リンはこれの何に興味を抱いているのか理解できないみたいだ。
「ほ、本当に?」
「ああ、ダメか?」
「い、いえ!むしろよろしくお願いします」
そういって頭を下げる。
(いや、本来はこっちが頭を下げるんだが)
その後、同好会の入会書に名前を書き込み、晴れて『スキル研究同好会』入会した。
それからは学園が終わると同好会の部屋に向かう。
と言っても廃校の数ある一つを借りているだけが。
「ではフルク先輩、資料を見させてもらいます」
「どうぞ~」
現在、この研究会には俺とフルク先輩のみが所属している。
フルク先輩の資料には身長、体格、体重、性別、年齢の個人情報にスキルレベルと使用できる技についての記述がびっしりと書かれている。
「リストで見てみると、人によって使用できる技とできない技がありますね」
「そうなんだよ、だからこそ細かくデータを取っているんだけど、理由がわからなくてね」
一つの技で傾向を取ってみても、ほとんど傾向と呼べるものがなく、しいて言えばスキルレベルが一定以上が必要という条件しか出てこなかった。
「スキルを上げれば、使える技が増える、これの原理がさっぱりでね」
「ですね」
技という一定動作をスキルを上げるだけで習得できる、本当にゲームの世界みたいなシステムだ。
「いろいろな文献を見ても、スキルに関する記述はそれぞれ違ってね~、ある国では人の本能に植えられていたものを呼び覚ますだとか、人によっては親や祖父、祖先から受け継ぐことができただとか、人が神より与えられた恩恵だとか、どれも根拠がないものばかりだったよ」
「ではフルク先輩は何がスキルの本性だと思いますか?」
「それを調べているんだけどね」
資料を眺めて言うと一つ疑問がある。
「先輩、ステータスについての資料はないんですか?」
すると片方の腕で親指と人差し指を付けた状態で掌を広げ、その後反対の腕で手を振る。
つまりは金がないということだ。
「どこかにパトロンでもいればいいんだけどね~」
「そうですね」
こちらを見てくるが無視して資料を確認する。
「っと、すまない、調べ物をしてくるよ」
そういうと紙とペンを持って部屋を出ていく。
(技を使用するにはスキルレベルが必須なのは理解できる、だが使用できる奴とできないやつがいる、なぜだ?)
体格も性別もスキルレベルも同じで、使用できる技に違いが出ている。
(魔力に関係するのか?)
クラリスやエルフからしたら魔力でも千差万別に見えるらしい。
ならばその魔力の違いで使える技に違いはあるのか?
(クラリスに確認してみるか)
ということで帰ると書置きを残し、館に戻る。
「はい?スキルに魔力は関係しているかって?」
俺の部屋のソファで寝ているクラリスに尋ねてみる。
「結論から言うわよ、無いわ」
「言い切れる根拠があるのか?」
「ええ、私たちは魔力を見ることができる、ということは技の前兆も確認できるのよ」
クラリスの話だと、過去にこの手の議題で研究した変わり者のエルフがいたらしい。
「技わね、魔力による一定強化しか行っていないのよ」
「どういうことだ?」
「たとえばね―――」
例えば『剣術』に『スラッシュ』という技がある。
これは普通の斬撃を何倍ものダメージにするというものだ。
もちろんこれにも魔力消費がある。
さてここで消費された魔力はどこに行ったのか。
それを調べてみた結果、剣の刃先に薄く張り付いていただけらしい。
それも剣先よりもさらに鋭角の刃のようにしてだ、つまり『スラッシュ』とは剣先をさらに鋭くするように魔力がへばりつき、切断力を強化している。
「技は基本的な強化のみよ、属性攻撃でもない限り、ただ魔力自体があればいいということになるわ」
「なるほどな」
なので、例えその薄い魔力が赤でも、青でも、黄でも黒でも、なんでも関係なく。ただ張り付きより衝撃を伝える範囲を狭められればどんな魔力でもいいというわけだ。
わかりやすく例えるなら水車を回すのには液体が必要になる、だがここで必要なのは液体という状態の物質で、塩酸だろうが、真水だろうが、海水だろうが、何でも構わないということだ、いわば水車が回りさえすればいいというわけだ。
なので魔力の色、質などは関係ないらしい。
「それにしても魔力か」
何とも不思議な物で、こうしてスキルについて調べて、魔力自体に原因があると分かると、魔力自体にも謎があり、調べたくなる。
とりあえず頭を振り払い、魔力の質や色は技の使用には基本的に関係ないと分かった。




