あんなことがあれば隠し通すのは無理ですよ
「がるるるるるるるるるる」
自室に戻るとセレナがうなって待っていた。
「バアル、今回のことはさすがにやりすぎだと思うわよ」
おそらくセレナはクラリスに今回のことを話したのだろう。
「ああ、その件については悪かった」
「がるるるるるるるるる」
「はぁ~お前のおかげで早々に問題が解決したから金一封を渡そうと思ったんだが」
「……ワン」
お前はいつから犬になった?
「いくらほどもらえますか?」
「ボーナスと危険手当込みで金貨15枚」
「もう一声お願いします!」
「金貨17枚」
「ありがとうございます」
あれだな、手の平くるっくるだな。
セレナの機嫌がよくなったので机に座り、仕事を始める。
「一つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「ネロの出自はわかった?」
クラリスの言葉に一瞬体が硬直する。
「さぁな、金目当ての誘拐だったよ」
「セレナに事情を聞いたのよ?」
「クラリス」
言外にそれ以上は聞くなと視線で伝える。
「わかったわ、もう聞かないことにするわよ」
「そうしてくれ」
こうして今回の騒動は終結した。
「誰だ?」
「バアルです」
「入っていいぞ」
父上の執務室に入る。
今回はネロを連れて。
「どうした、いつもならネロを連れて歩きはしないだろう?」
父上の言う通り、いつもなら連れ歩くことなんてないだろう。
「そうですね、少しネロにも聞いてほしい話があったので」
そういうと俺とネロは対面のソファに座る。
「さて、まず、数日前の襲撃、当然、父上の耳に入っていますよね?」
「ああ、だがバアルが撃退したのだろう?」
父上には迎撃して何事もなく終わったと伝えてある。
「ええ、ただ襲撃者が言っていたことが気になって」
「………」
ネロが何も言わずに俺を見てくる。
「『奴を王になどさせるか』と」
もちろん、これは捏ちあげだ、あくまで二人を揺さぶるための発言に過ぎない。
だが似たような内容はすでに取り調べがついている。
「それで何が言いたい?」
「ネロの出自は王室ですか」
さて、二人の反応は。
「はぁ~~やっぱりたどり着くか」
父上は観念してつぶやく。
「ゼブルス卿」
「無理だ、本気でバアルが調べようとするのなら、おそらくひと月と掛からぬうちに露見する」
「そうですね、今回のことがなければ、調べようとは思いませんでしたよ」
この言葉は本心で、何事もなければネロを容認しそのままにしていただろう。
「はぁ、本当に要らん事ばかりをする」
本当にたまらんと父上は首を振る。
「バアル、悪いことは言わない、ネロが王室であることのみで抑えろ」
つまりはもうこれ以上はネロの本性を暴くな、と言っている。
「わかりました、ただこれだけは言わせてもらいます」
父上とネロを見据える。
「正体を隠すというのなら俺は完全にネロを信用はしません、むしろ邪魔にすら思いますよ」
「バアル!?」
「当然です、現在は父上の判断で雇っている一騎士でしかないのですよ?本当に特別扱いをしたいならそれ相応の事情を話してもらえなければこちらとしては許容できません」
「……お前の言い分は理解した、ネロそれでいいか?」
「ええ、こちらとしても正体は隠したいのです、問題ないです」
と言うことで双方からの許諾も取れた。
「では失礼します」
父上の執務室を出る。




