逃げられると思うな
その日の晩、貴重な神樹の実の交渉が終わったことにより、いい気分でベッドに入る。
「………すぅーーーー」
深呼吸すると、自然に意識が遠くになっていき、やがて穏やかな寝息へと変わる。
当然だが、この屋敷には警備がおり、暗殺者などを侵入を許す、ことはない、だがこの夜だけは違った。
「………」
周囲に人影がいないことを確認して、廊下を進む影がある。
「………」
しばらくすると一つの部屋にたどり着く。
「」
「」コクン
仲間に視線を向けるとカギ穴に手をかざし、開錠する。
その部屋は装飾が少なく、貴族に必要なもの最低限で済ませてあった。
中を見渡すとベッドの上のふくらみを見つける。
仲間に視線を合わせ、そしてベッドに近づいていく。
だが
リィン、リィン!
「「!?」」
突然鈴のような音が鳴る。
するとベッドから突然、何かが飛び出て、一人の腹を打ち付ける。
「がはっ!?」
「っ!?」
もう一人はすぐさま飛び退くが、一瞬光ったと思えばすぐさま首に腕が当てらる。
「とりあえず眠れ」
やたらと高い声が聞こえると同時に、かなりの力で首が絞めつけられる。
何とか拘束を外そうとするが、力が強すぎて、振りほどけない。
「ちっ(本来なら無傷で攫うはずだったのだが、こうなったら仕方がない)」
とっさに毒を塗った短剣を取り出し、背後に取りついている者を指そうとするが。
ギィン
横からの衝撃を受け、短剣が弾き飛ばされてしまう。
何とか振り向いて確認しようとすると黒髪の少女が剣を振るっていた。
(しく、じった、……か………)
次第に気が遠くなり体に力が入らなくなる。
「たく、人の眠りを邪魔しやがって」
いい気持ちで寝ていたのに、突然の襲撃で目を覚ます結果となった。
「暗殺者ですか、警備は何をしていたのでしょうか」
リンも少し怒り気味で警備に対して文句を言う。
「とりあえず、警備の者を呼んできてくれ」
「わかりました」
リンが部屋を出ると気絶している二人を見る。
(典型的な真っ黒な服装、所持品は毒塗りの短剣、それと何らかの薬品が数点と、しみこませるための布か)
装備からして誰かを攫うつもりであったのは明白だ。
「っ!?」
寝起きから少しして感覚がはっきりとすると、屋根上にとある気配を感じる。
「バアル様、警備の者を連れてきました」
するとちょうどよく五名の警備兵をリンが連れてきた。
「お前たち、そこの二人を監視しておけ!!」
「バアル様!?」
警備兵に命令を出すとすぐさまバルコニーに出て、屋根に上がる。
「ありゃ~やっぱり失敗したか~」
そこにいたのは宙に浮かんだ一つの影と、屋根に足をつけた人影。
「どうする?」
両方とも声は女性だ。
「こうなるともはやここにいる意味はないね、撤収~」
そういうと腕をフリ、高身長のほうも浮き上がる。
「逃がすかよ『天雷』」
すぐさま天雷を放つが剣士が前に出て剣を振るうと雷が二つに分かれ、逸れていく。
「うひゃ~こっわ~」
「おい、早く上がれ」
「じゃあね、お坊ちゃん、また機会があったら会おう」
そういって上昇していく。
「そうはいくかよ!!」
「いや~おっかないね、あんな雷撃見たことないよ」
「ああ、私も話で聞いたことしかない」
私たちの依頼は二人を館まで運ぶだけ、そのあとは定刻まで待機し、二人が戻ってきたらそのまま戻る、来なかったら私たち二人で戻ることになっている。
「にしても、人ひとり攫うことができないなんて無能だね~」
「本当にな」
「まぁ行きがけの駄賃てことだったし、成功しても失敗してもどっちでもいいしね」
「じゃあこの後は予定通り東に?」
「そう」
私は月が見えるように地に背を向けながら空を飛ぶ。
「はぁ~今日は雲が邪魔だね~」
せっかく満月なのに多くの雲があり途切れ途切れにしか見えない。
「ふぁぁ~~~、あれ?」
「どうした?」
「う~ん、いや見間違いだよね?」
遠くに見える雲が光った気がした。
バチバチバチ、ブジュン
「えぇえ!?」
一つの雲が光ったと思ったら、雷が近くの雲に当たる。
「あんな現象ってあるんだ……」
普通は雷は地上に落ちるもので雲から雲に向かうはずがない。
バチバチバチ、ブジュン
バチバチバチ、ブジュン
バチバチバチ、ブジュン
バチバチバチ、ブジュン
「ちょっちょっちょっ!?」
何度も同じ現象が起こり、雲から雲に雷が移動していく。
しかも私たちのほうに。
「やばいやばい!」
確実にアレは人為的に起こされているものだ、ならだれを狙って?当然私たちということになる。
だが雷の速さに勝てることもなく、最終的には頭上にある雲までやってきた。




