二人の才能
とりあえずセレナが落ち着くまで待つ。
「現状は理解できるか?」
「はい、お手数をおかけしました」
どうやらセレナは呪われた魔剣だと知らずに使っていたようだ。
「鑑定してくれとなぜ言わなかった?」
「なんででしょう?」
自身でもなんで言わないか不思議がっている。
「とりあえず、さっきまでの自分がおかしかったのは理解できるな?」
「はい、本当にごめんね、カルス君」
「いや、いいよ、セレナ姉もなんか大変なことになっていたみたいだし」
それからの話を聞いてみると、剣を拾った段階からの自分に違和感があるらしい。
「たぶんだけど、この短剣に興味を惹かれた状態で触るとさっきの私みたいになると思います」
セレナは自分の状況を分析して最も高そうな可能性を示唆してくる。
「あながち間違いじゃないかもな」
なにせ説明が『この剣に魅入られれば次の崩壊はその身に降り注がれる』だ、その可能性は十分にある。
「セレナはこれをどうする?」
「どうしましょう?呪われているのなら売ることもできないだろうし………」
「もしよかったら、俺が買い取ってやろうか?」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
すると全員がうろたえる。
「バアル様大丈夫ですか?」
「まさかとは思うけどさっき、セレナから剣を取り上げた時に?」
「ありえます、どうかお気を確かに」
「私もかかっていたからわかるわ、本当にいつのまにか自分が自分じゃなくなるの気を付けて!」
リンたちは大慌てで詰め寄ってくる。
「はぁ~疑うならセレナの時みたいに」
といった瞬間、何度も何度もユニコーンリングの光が飛んでくる。
ピカッ
ピカッ
ピカッ
ピカッ
ピカッ
ピカッ
ピカッ
ピカッ
「……うっとうしいわ!」
何も言わずに何十回も飛んでくるので、目がずっとチカチカしている。
「本当に大丈夫なのですね?」
「ああ、もとから俺はこれをすごいとは思ってねぇよ」
なにせ振るっている間に『飛雷身』で近づき、攻撃すればいいだけだからな。
そう説明すると全員が安堵の表情を浮かべてくれた。
「それでバアル様」
「ああ、そうだったな、金貨20枚でどうだ?」
「はい、お納めください」
金欠のセレナからしたら金貨20枚でもかなりの大金だろう。
と言うことで亜空庫から金貨の袋を取り出して20枚を渡し、短剣を受け取るとそのまま亜空庫に放り込む。
「さて、模擬戦を続けるぞ」
そう言うと皆あきれ顔になった。
とりあえずセレナの呪いの事件は解決したのでそのまま、模擬戦を始める。
「次はノエル対カリン」
「はい」
「は~い」
「二人は一切縛りはなし、自由にやれ、危険になったら止める以上、始め!」
始まりの合図を始めると、共にユニークスキルを発動する。
「こっちも予想通りだな」
「ですね」
カリンは定石通り足の強化を行うとすぐさま突撃する、それに対してノエルは『闇糸』を広範囲に展開して守りの構えを見せる。
「止めます!」
「捕まえてごらん」
すぐさま十本の糸がカリンに向かって迫るが。
トッ
カリンがさらに前かがみになると、さきほどよりもさらに加速して糸を潜り抜けていく。
「すごいな」
「カリンは身体強化系には天性の才能が有りますからね」
「そうね、正直リンよりも的確に魔力を配分で来ているわね」
カリンの身体強化はクラリスが文句なしと言う。
「今も目に魔力を送り、視力を強化しているわね」
それによって、ノエルの闇糸を正確に見ることができているという。
「じゃあ、カリンの勝ちか?」
「それはどうでしょうね」
三人を鍛えているラインハルトがそうとは限らないと言う。
「カリンは確かに強化に関しては騎士団の中でも最上位に位置します、が」
視線の先で、糸を抜けた先で、カリンの片腕に闇糸が絡みつく。
「あっ!?」
「終了です」
一度動きを止めてしまえば、ほかのすべての糸がカリンの四肢を拘束する。
「そこまで」
カリンの首にも闇糸が巻きつけられたので終了の合図を出す。
「カリンは強化の達人と評しました、ですがノエルもカリンに負けないほどの才能が有ります」
「それは?」
「空間把握能力と予測能力です」
ラインハルトの言葉だと、ノエルはその能力がずば抜けているようで。
相手の動きを観察し、どのように動くかを予測、糸を操り、逃げ場を減らして追い詰めていくのがノエルの最も得意とする先方なのだとか。
「下手をすれば私もやられる可能性すらありますからね」
ラインハルトが負ける時点でかなりの実力者だと判明する。
「なるほどな、それだと、障害物が多い場所がノエルは得意じゃないか?」
「ええ、室内や鬱蒼とした森でノエルとはやり合いたくないです」
ということで限定的ではあるがラインハルトをも恐れる強さをノエルは手に入れていた。




