それぞれの仕事
「いいですか、カルス、我々執事は主人の裏方となる存在です」
「はい」
「ですので、主人が快適に過ごせる空間を整え、主人の手を煩わせないように雑務を仕切ります」
とある部屋でカルスが執事長であるルウィムに仕込まれている。
「では、この部屋で主人が過ごせるように工夫してみてください」
「はい」
何やら訓練らしきものを行っているようなので覗いてみる。
「できました」
部屋の中は普通に綺麗にされている。
全て綺麗に整えられているが……
「カルス君、60点です」
「なんで!?」
「理由はいくつかあります、まずは窓です、今は程よく日が入ってきていますが、あと30分もすれば強い日差しが入り込みます、なのでその場所のみカーテンを閉じておく方がいいでしょう」
「うぐっ」
「次に机の上のインクです、カルス君は中を見てみませんよね、どのタイミングでインクを使うかわかりません、常にインクの中身を満タンにしておくことが大事です」
他にも細かい点を隅々まで指摘していく。
「……次行くとしよう」
「そうですね」
どうやらカルスに執事は合ってないようだ。
「ノエルはとてもいい感じですね」
カルスの場所とは打って変わって、侍女長の元にはノエルとカリンが部屋の掃除の手伝いをしている。
「カリン、もう少し丁寧に」
「……はい」
モップを持って廊下を掃除しているのはカリンだ。
「そうそう、廊下は人が通るから真ん中よりも端のほうがゴミが溜まりやすいからね」
ノエルは苦なく掃除をしているが、カリンは少し辛そうだ。
「……そろそろ、武芸の時間ね、カリン、ノエル、今やっている仕事を終えたら訓練場に向かいなさい」
「はい」
「はい!!!」
どちらが喜色の声を上げたかは声だけでわかる。
カリンは先ほどのやる気のなさが嘘みたいに張り切って掃除を終わらせる。
「ほら行こ!」
「はいはい」
カリンはノエルの腕を引っ張って廊下を走っていく。
当然ながら侍女長からはお怒りの声が上がるがカリンはすでに足を淡く光らせながら逃げていく。
「はぁ~あの調子じゃノエルのみが使えそうだな」
「ですね、あの二人は執事や侍女ではなく騎士として育てるのがいいのでは?」
「そうはいってもな、どこに預けるんだ?」
騎士としての教育を本格的に行うならそれなりの場所で育てなければいけない。
「騎士の誰かに引き取ってもらうのは?」
「無理、というか、カルス達の出自を忘れたか?」
「………あ!!」
カルスたちは自覚こそないがエジルカ子爵家の血縁者だ。
下手な家に任せると、鑑定をした際に面倒なことになるのは火を見るよりも明らか。
(下手すればエジルカ子爵に通じて身柄を受け渡される可能性すらあるからな)
ただ拾っただけの俺と、血縁のエジルカ家とではどちらが保護するにふさわしいかは簡単にわかる。
(とりあえずは、ゼブルス家が心地よいと思ってくれるまではそのままにしておきたい)
ということでとりあえずはそのまま放置だ。
「将来はどうなるかな」
ユニークスキル持ちだ上手く取り込めるようにしたい。
「………そう言えばセレナがカルス達に冒険者の良さを熱く語っていましたね、それでカルスとカリンは結構乗り気で…………」
「…………」
リンが俺の顔を見て話すのをやめた。
「セレナはどこにいる?」
「と、図書室にいるかと」
自分でも低い声が出たのは自覚できた。




