近衛からの推薦者
試験結果が発表されたということはこの後は夏休みの期間に入ることになる。
となると俺は執務やイドラ商会の仕事のため、ゼブルス家に戻る必要がある。
「クラリスはどうする?一回ノストニアに戻るか?」
俺たちはゼブルス領に戻るが、クラリスは別段その必要はない。
彼女はあくまで情報収集のためにグロウス王国に来たのだ、情報を届けるために帰るのも一つの手段だ。
「冗談、とりあえず生誕祭になるまでは帰るつもりはないわよ」
ということでクラリスもゼブルス家についてくることになった。
「それで何の御用ですか?」
学園が夏季休暇に入り、明日にはゼブルス領に向けて立つときにグラスがやってきた。
一人の少年騎士を連れて。
「いきなりだが、このネロをゼブルス家で雇っていただきたい」
「………どういう意図で?」
コネ採用ということなら断固拒否する。
だがグラスの表情からそんな軽いことではないのは明らか。
「それは言えない」
思わず眉が動いてしまったのがわかる。
「どういうことですか?」
理由が言えないのは、何かわけがあると言っているようなものだ。
「これをリチャード殿に届けてほしい、そうすればすべてがわかる。だが中身は見ることを禁じる。もちろん王命も発行されている」
「わかりました」
手紙と同時に命令書も受け取る。
「一応確認ですが、待遇などは普通の騎士のままでよいのですね?」
「そこもすべて手紙に書いてある」
「……わかりました、ですが雇用に関しましては、父上に届けてからそのあとに判断を仰ぎます、よろしいですね?」
「ああ、それで構わない」
ということで急遽一人増えることになった。
「で、お前は誰なんだ?」
馬車の中で対面しているネロに問いかける。
「私はネロ、家名などは今はご勘弁ください」
「では、いつしゃべる?」
俺はネロを観察する。
俺よりも輝いて見える金髪を後ろで一つにまとめて、鮮やかな緋色の瞳が印象的だ。
その顔もかなりの女性顔で下手すれば男でもいいという奴が出てくるかもしれない。
年は俺より少し上。
鎧は比較的に動きやすいようになっており、腰に一つの剣を携えている。
「私からは何とも、すべては御当主から説明されると思います」
自分からは名前以外明かさないといった態度をとる。
「俺よりも少し年上か?」
「はい、今年で13になります」
俺の5つ上。
本来では騎士となるにはグロウス学園の中等部を卒業するのが通例だ。
近衛騎士となるには高等部までの経歴が必要になる。
もちろんそれは通例であり、全員がそうとは限らないが、
「高等部に行こうとは思わなかったのか?」
その年齢だと今年でちょうどグロウス学園の中等部を卒業したあたりとなる、ある意味ではゼブルス家の騎士になりたいとする気持ちもわかると言えばわかる。
ゼブルス家でも普通に騎士や魔術師、文官を募集している。
ここで疑問に思うのが、それに応募する訳ではなくグラスがわざわざ紹介してきたことだ。
しかもコネではなく手紙を持たしたときた。
(どう考えても、訳があるだろうな)
「なにか?」
「普通に応募しようとは思わなかったのか?」
現在ゼブルス家が募集している武官、文官の条件は
・年齢13以上(一部例外あり)
・武官、文官になる実績
この二つだけだ。
なのでラインハルトのように平民の出の騎士も多く存在している。
もちろん推薦状や、実績の提示でより受かりやすくはなっているが、基本は実力のみを見ている。
そして重要なのが年齢が13以上となっているが、例外的に中等部の三年は早期の応募を可能にしてある。
まぁわかりやすく言うと内定ということだ。
もちろん解約権留保付労働契約であって、より良い条件の職場に移ることもできる。
だがネロはそれに応募をしなかった。
「もちろんそちらで応募と考えていましたが、諸事情で応募ができなかったのです」
「諸事情を話しては?」
ネロは首を横に振る。
ここまで口が堅いということは、探ろうとしても口を噤むだろう。
「では何ができる?」
おそらくネロを雇うのは確実だろう、となるとできる技能を聞いておく。
「騎士のやるべきことは一通り学んでおります、ほかにも文官の技能も取得しております」
「希望は騎士なんだよな?」
「はい」
「では武術や魔法はどうだ?」
「剣術はグラス殿に習い、魔術については宮廷魔術師に習いました」
「………」
こいつ馬鹿か?
今自分で近衛騎士団長のグラスと王城で務めている魔術師に習っていると自白したぞ。
ということはネロの正体はある程度察することができる。
「それじゃあ、かなりの腕だな」
とりあえず場を濁しながらゼブルス領に向かう。




