獅子身中の虫
「よくやったな」
「ですね」
少し離れた建物の屋根で俺とリンはセレナの戦いを見ていた。
「にしても最後は逃げられましたね」
俺とリンの目にははっきりと見て取れていた。
「じゃああとは俺がうごく」
「はい、ご武運を」
俺は『完全迷彩』を使用し闇に溶け込んでいく。
ボタッボタッボタッ
無くなった左腕から血をたらしながら、一人の男が路地を進んでいく。
「っち、くそが!!」
おもわず苛立ち壁を殴りつける。
「最後の最後で持ってかれた!!!!!!!」
何度も殴り苛立ちを消化する。
最後の触手に腕をつかまれた時だ。
それが最悪なことに短剣を持っていた左腕だった。
様々な方向から出てきている触手を切り取るのは少しだけ時間がかかり、その時間があれば俺は挟まれて潰されていた。
よって一回で拘束を解くために短剣と左腕を犠牲にした。
「命には代えられねぇが………くそっあれを手に入れるのにどれだけ苦労したと思っている!!」
憤慨するが一度冷静になる。
「まぁいい、この世界ならこれさえあればとりあえず食っていける」
耳飾りを右手で触る。
「はぁ、報告もしなければいけないか」
そういうと、そのまま報告しに行くために一つの建物に入っていく。
「どうだ、!?」
「わりぃな失敗した」
「なに!?たった小娘一人だぞ!!」
「ああ、以前はな」
「……どういうことだ?」
俺は戦いで気づいたことを報告する。
「―――ということで失敗した」
「そうか、やはり、あの小娘には何かあるのか」
「だろうな」
すると扉の奥から凍えるような気配を感じる。
シャキ
すぐさま剣を取り構える。
「おい!?なにを!?」
「誰かいるぞ!!」
そういうと依頼主も理解したのかすぐさま、ジュウを取り出し構える。
ギィ……ギィ……
扉の向こうから少しずつ歩いてくる音が聞こえる。
コンコン
扉がノックされる音が聞こえる。
………クイ
依頼主を見ると顎でお前が行けと促される。
慎重に扉の前に移動する。
………そっ
まさに扉に触れようとしたその時だ
ガゴン!!
「がはっ!?」
扉を突き抜けてきた腕が頭を鷲掴みにする。
「おのれ!!」
ボォン!
ジュウが発射されるが銃弾は当たることなく地面に落ちる。
「な、なにが?」
「この!?」
なんとか離れようとするが剣が何かに阻まれて体まで届かない。
「お前には用ない」
「まっ、待ってく」
グシャ
これが俺が最後に聞こえた音だった。
頭を握りつぶし、こと切れた男を放り投げて、部屋の中にいる男に対面する。
「………」
「ひぃ!?」
すぐさま逃げ出そうとするので取り押さえる。
「こ、ころさないでくれぇ!」
「安心しろ、とりあえずは殺すつもりはない」
男を引きずり強制的にソファに座らせる。
「さて、いくつか聞きたいことがある」
「な、なんだ」
とりあえず殺されないってことがわかったようだ。
「お前はどこの組織だ?」
「き、聞いてどうするんだ!」
気丈にふるまってはいるが足が震えている。
「どうやら勘違いしているようだから、先に言っておく、俺がここに来たのは手を組まないかということだ」
すると男は少し驚く。
「な、なぜ?」
「まず確認させろ、お前はフォンレン商会に所属しているものだな?」
「………ああ」
調べればわかると観念したのか素直に頷いた。
「さて、取引というのは簡単だ、アジニア皇国の情報をこっちにながせ」
「!?………どういうことだ?」
「なに、今この世界ではアジニア皇国の情報が高値でやり取りされている」
これは嘘ではなく本当だ。
様々な裏組織が暗躍し、様々な情報が売買されるようになっている。
むろん、向こうからの情報だけではなくこっちからの情報も存在はしているが、それは裏の騎士団の仕事だ。
「いいだろう、だが名を明かしてくれないか?」
「……そっちが言ったらな」
少し考えた後に、こちらに顔を向けた。
「私はロンラン商会外部仕入れ担当ムジョンという」
「よろしくムジョン、で、なんであの少女を狙った?」
「………」
ムジョンは何も言わない。
「はぁ~」
剣を取り出し、眼前に突き出す。
「はっきり言うぞ、今回の襲撃であの少女を狙った。あの少女はフォンレンがえらくご執着している存在だ、そんな存在を殺すのは一つ、フォンレンと敵対しているに他ならない。ましてやフォンレンは自分の部下にその理由を話しているのも確認している」
「…………」
「ちなみに理由は陛下自身が希望したみたいだ、それを知っていながらも邪魔をする、この時点ではっきりとわかるだろう?お前はアジニア皇国の敵対国の者だ」
なにせアジニア皇国の皇帝が望み、さらには交易は国の利益にしかならない行動のはずだ。
なのにそれを阻害する、この時点で国をよくは思ってはいない存在だと判断できる。
そしてその中でフシュンと合流していないことから前皇帝の忠義者じゃないことが判明。
となると、単純に国に敵対するものということになる。
すると観念した表情になる。
「わ、私を差し出しますか?」
「それはしない。言っただろう、今この国ではアジニア皇国の情報が高値で取引されていると、それにな」
俺はムジョンのそばにより耳打ちしてやる。
「面白い情報をやろう
バアル・セラ・ゼブルスはアジニア皇国の皇帝をよくは思っていない」




