矛盾が起こる時、必ず前提に間違いがある
屋敷から離れていくフシュンを窓から見る。
「………こういった形に持って行くつもりだったんですね」
護衛であるリンも話を聞いている。
「まぁな、これで向こうの情報もある程度は入ってくるだろう」
「そうですね」
俺の申し出にフシュンは手を結ぶことを同意した。
「アジニア皇国の大使をフシュンに認めるということですか」
そう、そうすることでフシュンはグロウス王国から認められた大使と言うことになる。
もちろん、ここでなにいっているんだ?と思う人も出てくるだろう。
だがフシュンは持ち前の実力を生かし、俺、ひいては王族との関係を気づくことに成功したとする。
となると当然グロウス王国としてはフシュンを大使にしてもらいたいと思うし、そんな国の願望を無視してまで大使をほかの奴にすることはまずないはずだ。
「これによってフシュンはグロウス王国との繋ぎ目になることによりアジニア皇国で一定以上の実力を持つ」
「さらにはグロウス王国の要人に招待をしたいとなればフシュンを通してのみとなり、バアル様やセレナを招待したいフォンレンや皇帝からしたら、手が出しづらくなるですか」
「そうだ」
簡潔に言えばフシュンに皇帝や前皇帝を嫌っている存在からした守られる権力という盾を渡す代わりに、アジニア皇国の、もっと言えば皇帝の情報を流してもらう。
(イドラの魔道具が普及すればフシュンもいらなくなるが、それには時がかかりすぎる)
だが不安要素もある、新皇帝がフシュンを抱き込むことに成功したのなら情報が一切信用できなくなるという面だ。
現状の広がり方だと、国境沿いのネンラール、クメニギスのいくつかの村がギリギリ。
そこから導き出されるのは順調にいけばあと2年もしないうちにアジニア皇国に到達することができる。
「ですが、フシュンを全面的に信用できるのですか?」
「……国に被害が出ないという点では信用できる」
皇帝に不信を思っているフシュンでも国自体には思い入れがあるみたいで、国民に害が及びそうな情報には注意を払う必要がありそうだった。
「さて、少しだけ忙しくなるぞ」
なにせ、一国の大使を確定させる動きをしなくてはいけない。
「………学園を休む口実ができてよかったと思っていませんよね」
「これは学生以前に国益を生み出す貴族の義務だ、なら学園なんて小事は無視するほかない」
「………」
リンから冷たい視線が送られるが気にしない。
それからグラスの伝手を使い、王家、外務大臣などに手を回し、大々的にフシュンが面会する場を用意することができた。
そして本日、フシュンとフォンレンが陛下と面会することになる。
「バアル殿」
王城の廊下を歩ていると先のほうからグラスがやってくる。
「どうかしましたか?」
「少し話がある」
グラスの表情を見ると何かあったらしい。
グラスに連れられて、だれもいない部屋に案内される。
「それでなにがあった?」
「お前の従士のセレナが襲われた件だ」
「何かわかったのか?」
裏の騎士団でなにかをつかんだようだ。
「セレナの話で途中に助力してくれた者がいるだろう?」
「ああ、いたな」
「そのものはうちの一員だ」
「……なんで黙っていた?」
時間差を考えれば隠蔽されていたことになる。
「それは謝罪しよう、こちらとしても他国との付き合いは結構な案件なのでな」
他国との付き合いに影響が出る可能性があるので伏せていたとのことだ。
「で、何を隠していた?」
「セレナの襲撃者はフォンレンの部下とコンタクトを取っていた」
「……へぇ~」
頭の中で一つの情報を埋め込み、どんな事態なのか想定する。
「一つ質問だ、『審嘘ノ裁像』の影響を消す方法はあるのか?」
「……私たちが確認している上では、ない」
グラスの答えにより、もしあったとしてもとてつもない希少性を持つ何かということになる。
(偽装されたのなら、普通に考えられるのはユニークスキル、もしくは希少性の高い魔道具)
★7に対抗できる魔道具など同ランクぐらいしかない。
そうなると国に数個あればいいほうになる。
「バアル殿はフォンレンが何とかして欺いたと判断するか」
このグラスの言い分で一つの可能性がでてきた。
「部下の独断か?」
「その可能性だと我々は踏んでいる」
長年、人の暗い部分をいてきたグラスだ、そういう読みあいではまだまだ敵わない。
「根拠は……聞くまでもないか」
なにせ像が反応しなかったんだ、むしろ普通ならそう考える。
「だが、意思が一貫しないな」
フシュンを襲撃するのは邪魔だからとわかるが、セレナの襲撃は利点がないはずだ。
「バアル殿、物事は何も中だけのものだけではないのですよ」
グラスはそういうと、面会の準備があるからと離れていく。
(中だけじゃない………………となると、そういうことになるな)
確たる証拠はないのだが、そういうことなのだろう。
「まぁ同情するよ」
俺は皇帝となった転生者に少しだけ憐れみを覚える。




