誕生、そして日々の暮らし
暗い。
水に沈んでいるようだ。
だけど不快感などは無く、むしろ心地よい。
だがそんな感覚も終わる。
締め付けられ、そのまま押し流されていく。
途中で狭い穴があり、痛かったが無事に通れた。
するとお尻を強く叩かれる。
「オギャアア、オギャオギャ」
誰の声だ………俺か。
「XXXXXXX,XXXXXX」
「XXXXXX,XXXX」
誰かの声が聞こえるが眠気に耐えられずそのまま眠りにつく。
転生してから5年。
俺はバアルと名付けられ大切に育てられた。
「あらバアルここにいたの」
「はい、母上」
この人はエリーゼ・セラ・ゼブルス、俺の母親だ。
年齢は21で金髪碧眼の綺麗な人だ。
「相変わらず、本が好きなのねバアルは」
「はい」
俺は歩き出せるまで体が成長するとこうやって書斎で本を読み漁るのが日課だ。
「それよりお父さんが呼んでいるわよ」
「わかりました」
俺は今読んでいる本を仕舞って父の執務室に向かう。
コンコン
「入れ」
「失礼します、お呼びになりましたか?」
執務室に入ると、そこには少し太り気味の人の好さそうな男がいる。
「よく来たなバアル」
この人は俺の父親、リチャード・セラ・ゼブルス。
髪は母親と同じ金髪なのだが目の色だけが空の色なのが特徴だ。
「それでお話とは?」
笑いながら歓迎する父親に本題に入れとせかす。
「あ、ああ、お前もあと少しで5歳になるだろう?少し早いが教会で清めを受けてもらおうと思ってな」
『清め』とは教会で行われる一種の儀式だ。五歳になる年に厄除けとして教会に子供を集め神々に祈りを捧げ加護をもらうとされている。
「わかりました」
まぁ実際はステータスを確認するだけの儀式なんだけどな。
「そのために一度王都に行くからその準備も必要になるぞ」
「わかりました、では失礼します」
「ち、ちょっと待て」
「どうしました?」
「あ~すまんがこの書類を一緒にかたづけてくれたりは」
「では失礼します」
「き、金貨2枚でどうだ」
「3枚」
「2枚と大銀貨2枚」
「2枚と大銀貨8枚」
「2枚「これ以下なら断ります」わかった2枚と8枚で良い」
俺は机の上にある書類を取り近くにある机で処理し始める。
「ここ計算間違っています」
「この備蓄数は間違いです」
「騎士団からの必要な物資ですがもう少し優遇してもいいのでは」
「御用達商人から新商品について相談が来ていますがどうしますか」
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「これで一通り終わりましたね」
「……」
父親は机に突っ伏している。
「ではお約束は忘れずに」
「お、お~、わかっているよ」
くたばっている父親を置いて俺は部屋を出る。
その足でとある部屋まで向かう。
「おい、町に出るぞ一緒に来い」
「バアル様、無断で連れ出したら怒られるのは私なのですが」
来たのは庭師見習のギルベルトの部屋だ。
「俺が連れて行くんだ無断ではない」
「……いくら聡明なバアル様でも5歳と7歳が一緒に街に出るのはまずいのでは」
「以前怒られてから一人で出るな、としか言われてないからな二人なら問題あるまい」
「ですが身分をお考え下さい、公爵家嫡男が二人で出かけるなど、しかも僕たち子供ですよ」
「そんなへまはしない」
「……(これは何を言っても無駄なのでしょうね)わかりました、準備をするので少々お待ちください」
「50数えるまでには出て来いよ」
1、2……………
47、48、49、50
「おい、まだか」
「今終わりました」
ギルベルトは作業着ではなく普通の私服を着て出てくる。
「では行くぞ」
「それでどこから出るんですか?門の方は門番がいますよ?」
「簡単だ抜け道を使う」
俺はとある壁の部分に来る。
「ここですか?」
「少し細工がしてあってな」
俺が壁に手を当てると一部の壁が変形して子供が通れるくらいの穴ができる。
「これは…」
「ほら呆けてないで行くぞ」
呆けているギルベルトを先に通し、外に出る。
「なんてものを作っているんですか……」
「まぁいい、それよりも行くぞ」
俺はそのまま市街地に入りある商店に入る。
「これはこれはバアル様」
「よう、支配人」
ここは俺の息がかかった店だ。主流の商品は俺が作る魔道具を売っている。
「それで今回の要件は何でしょうか?」
「目立たない服を一式用意してもらいたい」
「服でございますか?」
「町を回りたいんだが、この服では目立つからな」
「わかりました少々お待ちください」
支配人は店の者に目立たない服を買ってくるように命令した。
「じゃあ、その間に報告を聞こうか」
「はい、まず店の状況は盛況です。魔道具が入った瞬間に売れていく状態ですね」
俺は生前の知識と異世界の魔法という技術を融合させた道具、魔道具を生産してこの店に降ろしている。
「それで次の入荷の話ですが…」
「次は俺が王都から帰ってきたら商品の補充をする、どの魔道具が売れているのかリストを作ってくれ」
「わかりました、では後日公爵家に届けさせてもらいます」
するとドアがノックされる。
「バアル様、服が届きました」
「ご苦労」
俺は服を着替えてそのまま町を見て回る。
「バアル様これからどうするので?」
「とりあえず露店でも回るぞ」
俺は屋台や古物商、食べ物、鉄や武具などを見て回る。
そして日が暮れると店はどんどん閉まっていく。
「はぁ~楽しかったですねバアル様」
串焼きを片手に持ちながらそんなことを言うギルベルト。
そんなギルベルトを連れて俺は屋敷に戻るのだが。
「よう、ギルベルト。お前今日の分の草刈りやんなかったろ?しかも若様を町に連れ出して」
ギルベルトの師匠の庭師が門の裏から現れた。
「いや、これは」
「言い訳は聞かん!」
ギルベルトは拳骨を落とされ、引きずって行かれた。
(ご愁傷様、ギルベルト)
俺も館に戻ろうとしたのだが。
「バアル」
後ろに般若の顔が見える母上がいた。
「私、貴方が町に行くなんて聞いてないんだけど」
俺は冷や汗を流す。
「いえ、以前叱られたときは最後に一人で行くなと言われまして。それは裏を返せば一人でなければ外に出ていいと解釈したわけでして」
「………」
それからいくら釈明しても母上の冷たい笑顔が治ることは無かった。
「罰として1週間お父さんの仕事を手伝いなさい、そして外に出る時必ず家族に報告すること」
「………わかりました」
「そして王都に出るまで家から出ることを禁じます」
「…………」
とぼとぼと家に入っていく。