ようやくできた自覚
話を終えて家への細道を通る。
「はぁ~」
ため息も吐きたくなる。
『両親もいますし、今の私は雇われている身です相談しないことには』
そう返答し保留にしてもらうことにした。
「バアル様に報告しなくちゃ」
そう思いながら家への道を通る。
「相変わらず暗いな~」
バアル様に雇われてから借家を探したので、かなり遠い場所か不便な場所、何か訳ありな場所しかなかった。
そのため私の家は路地の入り組んだ場所にあり、日が昇っている時でもかなり暗い、日が暮れた時は灯りがなければ本当に真っ暗になる。
「こいつがか?」
「みたいだね」
そんな声が聞こえると背中から衝撃を受ける。
「グッ!」
そのまま衝撃で地面を転がっていく。
「すまんな嬢ちゃん、俺たちのために死んでくれや」
近づいた男が剣を振り上げる。
「なめ、るな!!!」
ユニークスキルを起動させて3つの思考を同時に行う。
一つは体の制御、一つは五感を使用した状況把握、一つは精霊に魔力を流して顕現させる。
一つを完全に体の制御に回したおかげで、即座に立ち上がり剣を紙一重で回避する。
「およ」
「バカ、俺がやる」
「『輝晶剣』!」
剣を抜きスキルを発動させる。
「おいおい、普通の子供じゃないのか?」
周囲に3つの剣が浮かび上がり、近づいてくる存在を迎撃するのだが。
「前もって言っただろう、こいつもユニークスキル持ちだ」
「あ~寝てて聞いてなかったわ」
二人は私の輝晶剣を軽く流し、雑談する。
(意外に強い)
剣術だけで見れば到底かなうはずもない存在だ。
「なら魔法で!!」
急いで魔法式を構成して距離を取る。
「お、いける口だね」
「おい、さっさと片づけるぞ」
「へいへい」
二人とも輝晶剣をはじき、迫ってくる。
「こいつらの間に土壁をお願い!!」
精霊に魔力を渡しお願いをする。
それに呼応するように精霊は震えるとあいつらの進行先に土壁が出来上がり、邪魔をする。
「っち、邪魔なんだよ」
一人は体に赤いオーラを纏わせながら壁を突き破り迫ってくる。
「『火壁』」
今度は抜けられないように火の壁を造る。
「土弾!」
次は以前精霊に説明した土の弾丸を作り発射する。
(これなら)
土の弾丸は火の壁を突き抜けて暴漢二人に飛んでいく。
だが予想と反して、一人は体を滑らかに動かしすべての弾丸を受け流し、もう一人は剣ですべてを切り伏せる。
「うっそ!?」
その動きはアニメの中でしか見たことないものだ。
「オラ、それだけか!!」
「所詮はガキだな」
そう言うと剣を持った方が一振りすると火の壁が切り裂かれて私のことが丸見えになる。
「っ!?」
背中を見せて逃げるのだが。
「もう逃がさないよ~」
既に逃げようとした場所には拳の男が先回りしていた。
(どうしよう……魔力もないし)
こんな時自分の魔力が少ないことが恨めしい。
以前【精霊王の祝福】で増加した魔力は精霊と契約するためにほとんど使っていた。
(あの時の魔力が今あれば、!?)
飛んできた短剣を転がって避ける。
「ありゃ、勘が鈍ったか?」
「いや、この少女が上手いだけだ、まるで体と頭が別の生物みたいにな」
(!?気づいている?!)
彼らも完全に見破ったわけではない、状況判断能力と表情による感情のずれからなんとなく予想しているだけに過ぎない。
「まぁいい、さっさと済ますぞ」
「はぁ~い、オラッ!!!」
「やば!?」
背後の剣持ちが手に持っている剣を大きく振りかぶり投げてきた。
(剣士が剣を投げるなよ!!)
変な考えをしながら自分に迫ってきている剣を見ていることしかできない。
その速度は矢よりも早く飛んで来ていて、どう動いても避けることができないのが理解できる。
(あ、本当にまずい)
脳内でこの世界での記憶がよみがえっていく。
(これでゲームオー……バー…………嫌、嫌!!!!!!!)
何度もゲームで死んだりしているので大丈夫なはずと思っていたのだが、明確な死を突き付けられると心が拒絶する。
(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)
そして気づいた、ここはゲームの世界じゃない。
紛れもなく現実で私は生きているのだと。
『多重直列思考』




