大人の贖罪
事の起こりは昨日にさかのぼります。
「その日はクラブがあったので学園後、バアル様とは別で、帰りました」
私も特待生なのでバアル様と同様に学園から一軒家を貸し与えられています。
本来なら王都出身の私は家族が家を持っていたので普通はそっちに帰るのですが、私がゼブルス家に仕えることが決まった際にバアル様が既に話を付けていたらしく家族はゼウラストに引っ越しを済ませていました。
そのために帰る家がないのでバアル様のすぐ近くの家を借りているのが現状です。
ちなみに言えば自身で借りる家を見つけて、家賃が規定内なら学園が払ってくれる仕組みになっています。
学園から学生の帰り道には様々な屋台が出ている大通りがあります。
(あれ、この匂い)
家に近づくと一際いい匂いを出す屋台が一つ目につきました。
「おや、貴方は」
「フォンレンさん?」
屋台の横には以前バアル様といた商人さんだった。
(そういえば、この人に注意しろって言われているんだった)
少し身構えながらも懐かしい匂いに釣られて近づいてしまった。
「こんにちは、以前お会いしたのですが覚えていらっしゃいますか?」
「は、はい、フォンレンさん……ですよね?」
「はい、その通りですよ」
フォンレンさんの笑顔には疚しさなど一切ないように思えるのだが。
「失礼、貴方のお名前は何ですか?」
「……セレナと言います」
「セレナさんですね、あの場ではバアル様、それとリンさんという方のみしかお話ししなかったもので」
「いえ」
思い返せば確かに自己紹介などをした覚えはない。
「セレナさんは学園帰りですか?」
「はい」
「ではお近づきの印にこれをどうぞ」
紙に包んで差し出されたのは香ばしい匂いのする茶色の三角形だ。
「私の国ではヤキオニギリといいます」
(……やっぱりそうなんだ)
差し出されたものはどこからどう見ても前世の名前と一致する食べ物だった。
「こちらでは馴染みがないですが、これはコメというもの穀物が使われた、わが国では代表的な食べ物ですよ」
(名前も一緒なのか……)
となるとやっぱり………
「どうしましたか」
「い、いえ、とってもおいしいです」
「それは良かったです、実は我が商会でコメや漬物を売ろうとしているのですがあまり芳しくなく、もしよろしければ宣伝いただけませんか?」
「……それくらいでならば」
バアル様の食事に出すのもいいかなと思っているとフォンレンさんがすこし真面目な表情になる。
「失礼ですが、セレナさん、少しだけお話があるのですがいいですか?」
「な、なんでしょうか」
「あの書状をバアル様から渡された際に気になる部分はありましたか?」
この時、自身でも動揺していたのが理解できる。
「い、いえ、ありま」
「実は陛下から同類にのみわかる暗号を示している、と言伝があったのです」
この言葉で皇帝が同じ転生者であることがはっきりした。
「私にはわからないですが、おそらく傑物の類のみがこの暗号を理解することができる」
「………」
「もう一度聞きます、暗号を解くことができましたか?」
このときどうしてかわからないが自然と首が縦に振るってしまった。
そしてそれが終わった後意識がはっきりとした。
(まずい!?注意しろって言われていたのに)
私は血の気の退く感覚を覚えながら、フォンレンさんの顔を窺う。
「それはよかった!!」
そういうフォンレンさんの顔は本当にほっとしている顔だった。
「へ?」
先ほどの雰囲気の違いにこの声を出してしまったのも無理はないだろう。
先ほどまで冷静に獲物を追い詰める表情をしていたのに今は本当にホっとしたような顔をしている
「実はあなたにお願いがあります」
「……なんですか」
警戒しながら話を聞く。
「一度でいいので陛下とお話ししてください」
「……はぁい?」
思わず変な返答になった。
「陛下は国のために幼くして王位につかれました」
その話は聞いたことがある。
「彼には不思議な力と知恵を持っていましたので、皆がその力に頼り祭り上げました、より良い国になるために………いえ彼を犠牲にしてですね」
話を聞くと、王様は国の不満を一人で一心に背負い国を頑張って動かしているらしい。
「お願いです、彼をあそこまで祭り上げてしまった大人の贖罪なのです、どうか」
頭を下げられる、屋台の方も見てみれば作業している数人も同じく頭を下げている。




