使い勝手のいい駒の心境
(何で私はこき使われているんだっけ?)
私はスラム街を進みながらふと思う。
(最初はイドラ商会の件から始まったっけ)
根幹の装置を奪取する目的で隊長とデッドで侵入し、罠に嵌められて関係が始まった。
(………あの件は確かに油断していた私が悪いわよ、でもなんであんな大変な人物の専属にならなければいけないのよ!!!!)
その後はこき使われまくっていた。
脳裏に黒い笑顔を浮かべているバアル様が浮かび上がる。
(若は毎度毎度無理難題出したりするけど、自分でも暗部を放っているならそっちを使いなさいよ)
お得意の魔道具を持たせている暗部を放っているなら裏の騎士団よりも迅速に情報を得られているはず。
なのによく裏の騎士団を使っている。
(合宿の件でもそうだしアズリウスのオークション、ノストニアでの国交開発の際も私たちを動かして!!)
ノストニアの際に魔道具を貸与したことに関しては仕方ないとしても、合宿の際に自身の暗部だけで事前に阻止することができたし、オークションに関してはわざわざ報告を上げさせる必要すらない。
そしてそれらのことを思い出しているともう一人怒りを覚える人物が思い浮かぶ。
(あいつにも腹が立つ!!!)
あいつが嵌めたことにより私たちがこんなに使われるんだ!!
(牢屋で鍵に発信機が付いていることは教えなさいよ!!それと合宿でよ!なんで魔物誘引剤を使っているのよ!!)
なぜあの場であのような行為をしていたのかは謎だ。
あの禁忌品ならもっと他に使い道があるのにだ。
(おそらく依頼でしょうね、誰かを狙った)
貴族とは汚い部分も多く使う、暗殺などその一つだ。
そして裏の騎士団を支援しているのも貴族たちだ、なのであの件はそこまで深追いせずにある程度の調査で済ましている。
そう考えると自分の仕事に嫌気がさしそうだがそうでない貴族もいると知っているので問題ない。
(それでいうと人が悪そうなバアル様はなぜだかいくら調べても清廉な統治をおこなっている面しか見えないし)
バアルは政治に関しては私情を一切挟むことなく行っているのでそれも当然と言えば当然だが、様々な暗い情報を持っていることから信じられないでいるルナであった。
「動くな」
後ろから首を掴まれる。
「!?」
「下手に動くな、殺す羽目になる」
首に当てられた手は暴れようとすると容赦なく力が籠められる。
「……何の用?」
命を握られているというのに『危機感知』スキルの反応がない。
(今のところは殺すつもりはないということね)
ほんの少しでも死ぬ確率があるならスキルが反応してくれる、だがそれがないということはとりあえずは問題ないということだ。
「久しぶりに見たことある人物がいたのでな挨拶しに来た、っていえば信じるか?」
何とか顔を動かし後ろを確認する。
「まさかこんなところにいるなんてね」
薄気味悪い被り物をしている、私を忙しくさせた元凶だ。
(こんな近くに潜んでいたのね)
「さて、一つ質問させろ」
「……なに?」
本来なら聞く必要はないのだけど、今回は裏の世界に入り浸っているこいつはいい情報源になる。
「少し前に起こったスラムの件を調べているのか?」
「………そうよ」
話そうか迷ったが別段知られても問題ない範囲だと考える。
「なら提案だ」
「提案?」
警戒する。以前嵌められたこともある、その経験から警戒しざるを得ない。
「情報交換しないか」
「……どういう意味?」
「簡単だ、少し前に俺にとある交渉があった、だがその最中に襲撃を受けてな」
「あの争いは貴方たちだったの」
「そうだ、それで襲撃者のことを詳しく知りたいんだが、いかんせん、王都で俺は動きにくい、だから」
「私たちを使おうとしている訳ね」
納得がいった。
この男はゼブルス家から追われる立ち位置だ、いくら潜伏しているからと言ってもゼブルス家の長男がいるこの王都の表で活動してしまえばまずいことになるのは明白。
「いいわ、ただし今回の情報は等価値ではないわ、貴方が王都にいるということをバアル様に伝えれば」
「別段伝えたところで意味がないがな」
「!?」
「あらかじめ逃げる経路は確保しておくのが普通だろう?」
私がこの場をしのぎ、バアル様に報告したところで、その前に逃げ切る自身があるそうだ。
「………分かったわ、情報交換の要求は呑むわ」
そう言うと首に込められている力が緩んでいく。
「では場所を変えるぞ」
「……」
否応なくついて行くことになった。




