独占したも同じこと
それからは普通に登校し、授業を受けて、訓練をするという日々がひと月ほど続く。
(平和でなによりだ)
去年の騒々しさといえば人生の不幸を一点に凝縮したようなものだ。
「それで何ようだ?」
学園の昼休憩にある五人がやってきた。
「バアル様、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
「…助かりました」
若干一名は嫌そうにお礼を言う。
そう、五人はノストニアの通行許可証を持っているアークたちだ。
「礼を言う必要はない、こちらとしても利があったからあの条件を出しただけだ」
ソフィアに渡した書類にはこう書いてある。
「
____(以下『乙』と称する)はゼブルス家嫡男『バアル・セラ・ゼブルス』(以下『甲』と称する)と以下の条約を結ぶ。
1:乙は甲の許可なく、一度につき馬車一台分以上の交易を行うことを禁じる。
2:乙が他の貴族から交易に関して干渉を受けた際に甲はそれを庇護し、保護すること。
3:乙が上記に反した場合は、甲の年収相当の賠償金を払うこと。
4:上記の条約を破棄する場合はともに賛同している必要がある。
」
というものだ。
これに署名し、これをやってくる貴族に見せることにより、彼らにはすでに交易する権利が俺の手の中にあると知らしめることができる。
内容を簡潔に言うと、手軽な買い物程度なら勝手にしてもいい、だが本格的な交易に着手しようとすると俺の許可が必要になるということだ。
本来なら一つ目だけでも良さそうなのだが、バカな貴族の対策のため一応二つ目の項目も用意した。
(これで交易町以外の交易は俺の独擅場になる)
現在は両国とも交易町のみで商売を認めている。
ただ俺やアークたち五人に関してはその限りではない、ノストニアの様々な地に赴き、そこで売り買いができる。
交易町に出ている特産品などはごくわずかだとウライトから聞き及んでいる。
どれほどの益をもたらすことができるかなど想像に難くない。
礼を終えると5人はそのまま次の授業の準備に取り掛かりに行った。
それから午後に入り合同授業になる。
本来なら俺も習うはずなのだが、すでに槍術の担当カイルよりも技量が上回ったため、自由行動を許されいる。
ちなみにリンも同じく自由行動を許されていて傍で護衛を続けている。
自由行動を得た者同士で模擬戦を行ったり、新しい技を習得しようとしている組もいて、二年に上がるころにはちらほらとそういったものが出てくる。
「はぁ!」
「とりゃ!!」
格闘術の部分ではクラリスとオルドが派手に大立ち回りをしている。
「『破城拳砲』」
「『羽舞』」
オルドがゼロ距離からアーツを放つがクラリスもアーツで躱す。
「やっぱつよいな!!!」
オルドは嬉しそうに笑っているが、その笑う顔は何かが違う。
「『重手刀』」
オルドが手刀を作るとその部分が青くなる。
「『刃布の舞服』」
クラリスも以前見せた技で迎撃する。
ギィィィン
クラリスの袖とオルドの手刀がぶつかると剣戟のような音が鳴り響く。
「『胴割り』」
今度はオルドの回し蹴りに何らかの技が発動した。
「『衝掌』」
クラリスも技を発動させ、掌底でオルドの蹴りを弾き飛ばす。
ユラァ~
(あっまずいな)
二人とも本気になりかけている。
ここで止めないと、どちらかが大けがしてしまう。
「やめないか!」
同じくそれを察したのか格闘術担当の教師が二人を止めに入った。
「そこまでだ、二人ともこれから自由行動をしてよし」
つまりはあとは自身で研鑽を積めというものだ。
「わかりました」
クラリスは構えを解き場を離れようとするのだが。
「おい、待てよ」
「……なに?」
「このままで終われるか、勝負しろ」
オルドは諦めずにクラリスに再び戦いを挑む。
「いやよ」
「……なに?」
今度は逆にオルドが言葉を発した。
「だからやらないわよ、これ以上は本当に殺し合いになるわ」
「……なら俺の実力は認められていると考えていいのか?」
クラリスは肩をすくめる。
そしてそれを見たオルドはなぜだかガッツポーズをして喜ぶ。
(さては、あいつクラリスに惚れたか?)
それだったら納得だ。
「じゃあ、殺し合いにならない程度に模擬戦しようぜ」
「する必要はないわ」
「なんでだ!?クラリスにはこれしかないんだろう」
そういってオルドは拳を突き出す。
「………」
「エルフの全員を見返すために唯一残っている格闘術で強くなって見返すんじゃないのか!」
なにやらオルドが熱くなっている、その様子はまるで怒っているかのようだ。
「興味ないわ」
「っ!?」
クラリスはオルドに付き合わずに突き放す。
「あなたがノストニアでどんな話を聞いたのかは知らないけど、今の私はそこまで未練はないのよ」
「なんで……話が違う……あの話は嘘………」
なにやら思案気にぶつぶつとつぶやいているオルド。
「模擬戦ならほかの人にやってもらいなさい」
そういってクラリスは俺のそばに戻ってくる。
「いいのか?」
「ええ、なんかあいつの視線気持ち悪かったし」
何事もなく毒を吐く。
ただそれが本心から思っていると理解できた。
「どうしてだ、どうして?」
オルドがその場にとどまり呆然としている。
(……あいつは何を考えているんだ?)
オルドの思考が読めない、大馬鹿なら読めなくてもおかしくないのだが、そうではない。
異端者を見ているような気分になる。
その後、アークにより引きずられていき、とりあえずは何事もなく終わった。




