良好であろう関係性
ガタゴトガタゴト
冬が終わりすっかり春になった。
そんな道を一台の馬車が通っている。
「それにしても私まで入学する必要はあるの?」
対面には俺と同じ制服を着たクラリスがいる。
「この国の情報を集めるなら、王都の方が便利だぞ」
今年度からクラリスも入学することになっている。
「まぁ俺や陛下からしたら監視しやすいから、学園に入学させるのは賛成だ」
「そうね、肩書だけとはいえ婚約者だから、夫候補のバアルについて行ってもなにもおかしくないわ」
「そこは情報収集って言っとけよ」
クラリスとは婚約者という関係なのだが、そこに恋愛感情は一切存在しない。
俺のとしてはノストニアとのつながりを示すために婚約を受け入れ。
クラリスは兄である新しい森王『ルクレ・アルム・ノストニア』が人族との交友を望んでいることを形であらわすためだ、副目的に婚約者という肩書を使い王国に潜入、そして情報収集と人脈を広げるのが目的だ。
「……本当に殺伐としていますね」
隣でつぶやいたのは、セレナ・エレスティナ。
セレナは俺と同様、転生者だ。
それも『ゲームの中の世界』とこの世界は酷似しているらしく、かなりの知識を保有しておりかなり重宝している。
「もっと、こう、学園って面白い場所なはずなのに………」
「平民クラスは貴族と関わりさえしなければ楽しい場所だろ?」
「そうですけど………」
セレナは学園を神聖視しすぎている。
第一子に近い貴族程、学園は厳格な学園生活を強いられる。
(生来の遊び人には地獄のような場所だろう)
俺は前世の感覚もあるのでそこまで問題ない。
「本来なら多くの恋愛が成り立つ場なのに………」
王都に入るとクラリスを連れて城に呼び出される。
「そなたがノストニアの姫であるか?」
「はい、ノストニアの森王ルクレ・アルム・ノストニアの妹リアナ・クラリス・ノストニアです」
王座の間で俺たちは跪き、陛下と面会している。
「ふむ、そこのバアルと婚約したというのは真か?」
「はい、ただそこに政治的な理由が介在しているのもまた事実です」
「恋愛感情で結んだわけではないと?」
「その通りです」
これには陛下も面を喰らっている。
さすがにすこしは恋愛感情があると思っていたのだろう。
「では、つまらぬことを聞くが政治的な理由があればバアル以外とも婚姻を結ぶということか?」
「ごめんこうむります」
考えるまでもなくクラリスは否と答える。
「私は政治的な理由が生じるのであればバアルと婚約するのを受け入れました、ですがそれ以外では政治的な理由があっても拒絶すると思います」
「………」
案外気を許されているようだ。
「そうか」
陛下はなぜだか嬉しそうな顔をする。
「ではお主は学園に入学することに相違ないか?」
「はい、こちらの国を経験してみようかと、それにバアルがいるのであれば下手なことをする人物は少ないと聞きますので」
暗にこの国のことを完全に信用したわけではないと言っている。
もちろんそのことは大臣たちにも伝わったが顔を顰めるだけで何も言わない。
「わかった、わが国で心地よく過ごせるよう手配しよう」
「ありがとうございます」
これにて陛下との面会は終了した。
「で、呼び出されたのは本当にあれだけ?」
城の廊下を歩きながらクラリスが問うてくる。
「まぁ、国として体裁というのがあるからね」
クラリスと対面したのは、歓迎していると知らしめるためと報告通りの人物か確かめるためだ。
(なにせエルフはたった一人でも100人は余裕で殺せるだろうからな)
実際、クラリスならこの城にある騎士団一つに大立ち回りできるだろう。
「それよりもいろいろな便宜を図ってもらえるようだからいいじゃないか」
これでわがままが通りやすくなる。
「悪い顔しているわよ」
クラリスに言われたので表情を意識する。
「そう言えば、外交目的の婚約は俺以外嫌なんだって?」
するとクラリスは嫌な顔になる。
「そうね、そう言わなければ次々に人が殺到してくるでしょう?」
「否定はしない」
クラリスがパーティーに出たら婚約者がいるにもかかわらず言い寄られるだろう。
(政治的、商売的、さらには外見にも魅せられるだろうな)
今でこそ俺と同じ身長なのだが、いずれは大人になっていく。
そこでふと疑問に思う。
「そう言えばエルフの成長はどうなっているんだ?」
アルムは人間で言うと二十歳ほどの外見をしていた。
「いまさら?」
そう言いながらもクラリスは説明してくれる。
「私たちは20歳になるまで人族と同じように成長するわ、その後は老化が200年まで起こらず、そこから緩やかに老けていくのよ」
ちなみに老死するのは大体300年ほどだという。
(そりゃ、イピリアなんて覚えてはいないだろうな)
700年放置されたらさすがに覚えてない。
ふと一つの疑問が浮かび上がる。
「そういえばクラリスの年齢を聞いていなかったな」
クラリスが凍えそうな雰囲気を纏うが気にしない。
「デリカシーって言葉理解できる?」
「理解できているよ、ただ純粋に婚約者の年齢が気になっただけさ」
「女性に年齢を聞く?」
「体裁をとるなら年齢ぐらいは知っておくべきだろう?」
するとしぶしぶ教えてくれる。
「今年で10になるわね」
「ありゃ、年上なのか」
「文句ある?」
「ないよ、ついでに聞くけど成人は何歳から?」
これは知っておかなければいけない。
「ノストニアでは30から、こっちだと?」
「15だな」
つまり、俺はクラリスがいることによりあと20年は言い訳が使えるようになったわけだ。
「変なことを考えていないでしょうね?」
「クラリスをダシにして、逃げる算段」
ズム
「ぐふっ」
脇腹に手刀が突き刺さる。
「な、なにすんだ」
「私を囮に使おうと考えているからよ」
「お前だって、どうせ言い寄られた時に俺を言い訳に使うつもりだろうが」
使い、使われが俺たちの形だ、そこにケチを付けられる覚えはない。
「それでいうとアルムは何歳なんだ?」
「今年で55よ」
意外に年をくって………いるのか?エルフの基準がどうかよくわからん。
こうして無駄話をしながら王宮出ていく。




