念話と言語のメカニズム
「まず、いま僕たちが使っている言葉というやつは三つの部分が必要になる」
アルムは指を立てながら説明してくれる。
「一つ目が共通の知識、単語とそのイメージが合致していること」
相手に伝えたいイメージの単語を理解していること。
例えば『歩く』と聞くと、足を動かして前に移動することを指すようにだ。
「二つ目が文法、正しく単語を繋ぎ合わせる方法を知っていること」
もちろんのことながら文法を知らないと単語の意味だけ知っても大雑把にしかわからない。
「最後に正しい発音」
これは言わずもがな、間違った発音で違う単語に聞こえてしまえば伝えたいことは全く異なる。
「これらがすべてそろって準備が完了だ、次に」
アルムは土で出来た絵を自身の頭の上で浮かべる。
「これがバアルに伝えたいことだ、そしてこれを単語という欠片にする」
土の絵は欠片に分解される。
「そしてこれを発声により相手側に伝える」
欠片が一直線に俺の頭の中に飛んでくる。
「それで相手側の頭の中で単語の意味、文法などでつなぎ合わせる」
欠片が頭の上で繋ぎ合わせる。
「これが人にイメージを伝えるための言語という手段だ」
言語とはジクソーパズルといっても過言ではない。
頭で考えている絵を単語のピースに分解して、相手に受け渡し、相手側でピースを繋ぎ合わせて目的の絵を完成させ意図を伝える
「だがこんなものめんどくさいと思わないか?」
すると土の絵が消えていく。
「だから【念話】というのはこれを根本的から覆すんだ」
再びアルムは頭の上で絵を作り始める。
「相手に伝えたいことを思い浮かべるのは同じここからは少し工程が違う」
次にその土壁を水で覆う。
そして水は俺の上に移動すると土の絵と同じ形になり氷となる。
「……………イメージ自体を相手側に転写する?」
正解といった風にアルムは笑う。
「なるほど」
イメージ自体の転写、考え方はわかる。
これならばイメージがあればいいだけなので相手の言語を知っている必要もなくなる。
だがそれを行う手段が見当もつかない。
「やり方は簡単だ」
アルムは俺の額に指を当てる。
「こうするだけ」
『こうするだけ』
聞こえてくる声と頭に響いてくる声が二重に聞こえる。
「それのやり方を知りたいんだが」
「簡単だよ」
それから地面に図解してくれる。
「まずは自身の頭の中に他人でもアクセスできる領域を作り出す」
地面に描かれている絵の頭にもう一つ脳みそが描かれる。
「そしてそれを相手側につなぐ」
浮かんだ脳みそが切り離されてもう一人の人型の頭につながる。
(なるほどUSBメモリや外付けハードディスクのような外部記憶ストレージか)
確かにそれなら納得の方法だ。
「実践してみようか」
アルムは魔方式を地面に描く。
「この魔法を使ってみると言い」
アルムの言う通りに魔法を組み立ててみると頭の中に空白の部分が生まれるのがわかった。
「できたね?ならそこに自分の伝えたい絵、意思を書き込む」
言われたとおりに何を伝えたいかを考える。
すると空白の部分に伝えたい事が書き込まれていくのがわかる。
「最後にこれを相手の頭に同期させる、そしてこれが一番難しいんだ」
「アルムは難なくできていたみたいだが」
「これでもかなりの修練を積んだんだ、さぁやってごらん」
それから何とかアルムに同期させようとしているのだが、なかなか伝わらない。
「最初は相手方の額に手を当てながらのほうがやりやすいよ」
ということでアルムに屈んでもらい額に手を当てる。
そして気づく。
(………これって脳波に同期する要領なのか)
アルムの脳波を意識し、もう一度送ろうとしたら何かがつながったのがわかった。
「伝えたい事は『感謝する』かな?」
「合っている」
無事に送ることができたようだ。
そしてその後、何とか1メートル離れた場所から【念話】を送ることに成功した。
「ここまでくればあとは慣れだから頑張ってね」
「感謝する」
「それじゃあバアルも三人と同じようなことをしてみようか」
「了解」
イピリアに念話を送る。
『ほいよ』
返事があると同時に俺の周りに雷の球が浮かび上がり周回する。
「うん、全員出来たね」
三人も俺も全員それぞれの属性の球が周りに浮かび上がっている
俺たちはつぎの指示を待つのだが
「それじゃあ訓練終わり」
「………はぁ?」
なんと訓練はこれで終わりだという。
(手抜きか?)
「もちろん手抜きじゃないよ」
心を読んだかのようにアルムは答えてくれる。
「精霊魔法はどこまで行っても自身の意思を相手に伝えて事象を起こす、だけなんだ」
つまり精霊に意思を伝えらっるようになった段階で教えられることはないということだ。
「あとはそれぞれで研鑽してもらうしかないね」
これにて精霊魔法の訓練は終了した。




