せっかく精霊と契約できたんだ、なら訓練しておかないとな
「というわけで改めてバアルの婚約者になったクラリスです、よろしくお願いします」
翌日、クラリスが訪ねてきたと思うと全員を呼び出し、こう切り出した。
「ほぅほぅほぅ」
「まぁまぁまぁ」
父上と母上はとてつもなく喜んでいる。
「いつの間にそんな話に?」
「昨日アルムに呼び出されたときにそんな話が出たんだよ」
ここまで早く話が進むのは予想外だったが。
「確認なんだが、すでに先王様と皇太后様には許可を取ってあるのか?」
「もちろんよ、アニキが根回し済みだったわ」
それならこちらとしても文句はない。
「グロウス王国で不自由はさせないと約束するよ」
「ええよろしく」
俺とクラリスは握手をする、ともに様々な思惑を抱きながら。
祭りが終わってからグロウス王国に戻るまでは俺たちは暇になる。
なのでアルムに頼み込み、精霊魔法を習いたいと申し出たのだが。
「……なんでお前がここにいるんだよ」
指定された訓練場に行くと、そこには動きやすい恰好をしているアルムの姿があった。
「いや~さすがに体を動かさないとと思ってさ」
ここ数日ずっと書類仕事のみをしていたので動きたいらしい。
「新しい王が他国の客人と訓練かよ」
「大丈夫、今日は貸し切りにしてあるから」
アルムの言う通り訓練場には誰もいない、しいて言えば観客席にアルムの護衛らしきエルフが数人いるだけだ。
(ここで下手な行動をすれば矢が飛んでくるだろうな)
敵意むき出しではないが少し緊張している様子だ。
「大丈夫だよ、彼らは絶対に裏切ることはない」
アルムは断言する。
「なら安心だ」
精霊魔法を習いに来ているのは俺のほかにセレナとノエル、カリンの三名だ。
「まずは全員精霊を呼び出してみて」
俺はイピリアと呼ぶと半透明なイピリアが目の前に現れる。
『なんじゃ急に呼び出しよって』
とりあえずイピリアは置いておいてほかの三人を見るが呼び出せていないみたいだ。
「よし、全員呼び出せたみたいだな」
「はい?」
思わず口をはさんでしまった。
俺の目では三人の精霊がいるようには見えないからだ。
「呼び出せているのか?」
『阿呆、顕現しない限り、契約者以外に姿は見えぬわ』
だがアルムは見えているぞ?
『エルフなんだから魔力が見えるに決まっておろう』
ということでアルムにはそれぞれの精霊が見えているようだ。
「うん、基本契約した精霊は本人以外に見えないからね」
イピリアと同じような説明がされる。
「まずは顕現のやり方、これは簡単だ、精霊に魔力を流し込むだけ」
じゃあやってみてと言われるので、イピリアに向かって魔力を流し込む。
するとそれだけで半透明だったイピリアがくっきりと浮かび上がった。
「バアルは問題ないね」
次に成功したのはノエルだった。
「君も合格」
ノエルの周りには以前見た藍色の光りの玉が浮かんでいる。
そのあとはセレナ、カリンも顕現させることができた。
「それで顕現って実際何が起きるんだ?」
「ん?ただ見えて聞こえて触れるようになるだけ」
それだけ?
「もちろんそれだけじゃないけど、特性を持っている精霊以外はこれだけだね」
以前にも説明されたが特性を持つ精霊は一度でも精霊王になったことがある精霊のみだ。
つまりほぼ使い道はないと同義だ。
「………そういえばお前の特性ってなんだ?」
イピリアを眺めながら聞いてみる。
『ふふん、儂の特性は2つある』
「四回精霊王になったんだよな?なのに2つだけ?」
『仕方ないじゃろ!最初の二回は水・風属性を得るのに使っちゃったんじゃ』
詳しく聞くと精霊王から転生するとき祝福が与えられる、その祝福はほかの属性を得ることか特性を得るかのどちらかしかないらしい。
「本来は特性を得てから同じ属性の精霊と差をつけてからほかの属性を得るんだけどね」
そうしないとただ二つの精霊と契約すればいいだけになってしまうからという。
「まぁそれは後々二人の時にでも聞いておいてよ」
時間が惜しいとアルムは説明を続ける。
「さてもちろん顕現させたのにも理由はあるよ、顕現させると意思がはっきり伝えやすくなるんだ」
これはバアルにはあまり意味がないことだけどねと付け加えられる。
三人は意思のない低級精霊なので顕現させないと訓練しにくくなるという。
「それじゃあ本格的に精霊魔法を教えるよ」
精霊魔法というのは一言でいうと願うこと。
「発動したいイメージを精霊に伝えて、魔力を受け渡す、それだけで」
アルムの背後に、火、水、土、風でできたアルムそっくりの人形が出来上がる。
「これはそれぞれを俺の形にしてくれと皆に頼んだからだ、だから」
今度はそれぞれが分裂し俺たちの周りを飛び始める。
「ということで同じように、それぞれの属性の塊を自身の周りに浮かべてごらん」
ということでイピリアに向き合う。
『おぬしはする必要ないぞ』
「いや、練習したいんだが………」
ほかの三人は声に出して自身のイメージを何とか伝えようとしている。
『あの小僧、意地の悪い性格だな』
イピリアもその様子を見ている。
「いじわる?どういうことだ?」
『どうって、こんなもの【念話】を使えば何も問題ないだろうに』
「【念話】?」
アグラや千年魔樹が持っていたものだな。
「ありゃ、さすがにイピリアには通用しないか」
その様子を見ながらアルムが近づいてくる。
「なぁ、念話ってなんなんだ?」
言葉だけで言えば音を使わない会話手段に聞こえるが……。
「簡単に言えば言語の通用しない相手と意思疎通を指せる術ね」
「…………言語の通用しない?」
アグラやネア、千年魔樹やウルは今話している俺たちの言語を言っているわけではないという。
(言語を理解しているけど発音できないから念話を使っているんじゃなかったんだ)
ただその手段がわからない。
「どうやっているんだ?」
「そうだね~~~」
アルムは期待するような目でこちらを見てくる。
「わかった、訓練を頼んだ分とは別にもう一つ貸しにしてくれ」
「了解」
そうして説明を始める。




