好転していくかもしれない関係
その間にイピリアがいた精霊石を鑑定してみる。
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天空の精霊石
★×5
何の精霊も宿っていない精霊石。いずれ精霊が住み着くだろう。
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「なぁ、これに使い道はあるのか?」
『ないな、精霊石はいうなれば我らにとって看板でしかない』
「だが、お前はこの中で700年過ごしたんだろう?」
『宿るものがこれしかなかったからな、まぁ本来の用途とは違うから儂は出られなくなったんじゃがな』
ということで本当に使い道がないみたいだ。
『装飾品にも使えるから気に入ったメスにでもやるといい』
たしかに精霊石は綺麗だ、これを装飾品に加工して売り出せば相当な金になるだろう。
横目で放心しているクラリスが目に入る。
(…………そうだな)
本来の用途として使うのが一番だろう。
「ごめんなさいね、案内もせずに」
数時間かけてようやくクラリスは再起動した。
「いいのよ、クラリスちゃんにとっては大事な事だったのでしょう?」
母上はクラリスの頭を撫でる。
「……はい」
「ほら、まだ祭りは終わってないから案内してもらえる?」
「はい!」
母上の尽力のおかげでクラリスも立て直すことができた。
「なぁ、こっちに来てから私の影が薄くなってないか?」
「…………」
できることがないので仕方ないことです、父上。
それから日が落ちるまでクラリスの先導で生誕祭を楽しんだ。
「よっしゃーーーーーーー!」
セレナが拳を振り上げて声を上げる。
なんとセレナも精霊と契約することができたのだ。
証拠にセレナの周囲に茶色の光の球が浮かんでいる。
「低級の土精霊ね」
クラリスは嫉妬を見せずにセレナの精霊を調べ始める。
「良かったわね」
「はい!」
セレナはとてもうれしそうだ。
本格的に日が落ち始めると祭りにいるエルフ全員が一つの方向に向かって歩き始める。
向かっている先は祭りの開会式が行われた広場だ。
「また一段とすごいことになっているな」
開会式同様に大勢のエルフが集まっているのだがそれだけではない。
様々なところに光の球である低級精霊や動物の姿をしている精霊が至る所にいる。
そして様々なところで精霊と契約している姿が見受けられる。
「今年もだめだった~」
横で聞こえてきたクラリスの声には悔しさを感じさせることはなかった。
だが
(悔しくないわけないだろうな)
俺だったら自身が嫌になるほど悔しいと感じるだろうな。
「それでこれから何が起こるんだ?」
「そろそろなんだけど……………」
リィィィィィィィィィン!!!!
空から鈴に似た音が聞こえてくる。
「これか?」
「その通りよ」
リィィィィィィィィィン!!!!
ワァァアアアアアアアアアアアアア!!
鈴の音が響くと同時に広場のエルフが歓声を上げる。
それから何度も綺麗な音が聞こえてくる。
しばらくすると神樹が光り輝き。
「来るわよ」
次第に輝きは強さを増して行って最後には空に届く。
「ん?この声は?」
鈴の音とは違い動物の遠吠えが聞こえてくる。
「あっちも始まったわね」
クラリスの視線を辿るとそっちの方向にも光の柱があった。
「何が」
「他にもあるわよ」
周囲を見渡すと神樹の他に6つ、光の柱が出来ている。
(方角はアグラのいる方向………)
光の柱の数は6つ、そしてその光の柱は神樹を六角形に囲むように出現している。
となると。
「聖獣があの光の柱の正体か?」
「正解」
クラリスは秘密にすることもなく教えてくれる。
「アニキと同じく、聖獣様も聖権を授かるのよ」
森王が新しくなると同時に聖獣も継続するか継承するのかが決まると説明された。
「アグラベルグ様はそのまま聖獣として続けるけど場所によっては変更するから、ね、ネア」
『うん!』
ネアも嬉しそうにしている。
オォオオオオオオオオオオ!!!
広場で声が上がる。
釣られてそちらを見るとアルムが歩きながら広場に降りてきていた。
(なんか………………変わったな)
以前はアルカナ所持者特有の雰囲気だけだったのだが、今はそれに加えてもう一つ特殊な気配を感じる。
下で何らかの口上が文官らしきエルフから述べられる。
(どこの国でもこういうのは長ったらしいんだな)
正直聞いている側としてはさっさと本題に入れと言いたい。
『む、あいつらは…………』
いつの間にかイピリアが肩に乗っている。
「どうしたんだ?」
『いや、なんでもない』
なにかを確かめ終わったのか俺の体に溶け込んでいく。
「では陛下よりお言葉を賜われる」
文官のエルフが下がるとアルムが前に出る。
「これより新たな森王となるルクレ・アルム・ノストニアだ」
そう言っただけなのに大衆から歓声が上がる。
そして演説が始まる。
アルムはエルフを栄えさせると約束すること。
エルフに子孫が生まれにくくなっていること、そしてその対策として人族との交易を始めたこと。
「無論中には人族との交易に反対する者もいるだろう、だが考えてほしい、今衰弱している問題をしり皆はどのように防ぐ、私はそのために人族との交易を望んだ。少しの間でいい人族を偏見の目で見ずに自身で確かめてみてくれ」
そういって人族との偏見の目で見ないように訴えかけた。
(それでどれだけ効果があるか……………)
既に人攫いという悪行を人族は行ってしまった、そこからくる嫌悪感は相当のはずだ。
「クラリスは今のに効果があると思うか?」
「あると思うわ」
意外な答えに思わず振り向いてしまう。
クラリスは腐っても王族だ、それなりの教育を受けている。
民衆の意識改革の困難さはどれほどかを知っているはずだ。
「根拠は?」
「私とバアルが証明しているわよ」
「…………」
これには何も言えなくなる。
たしかに最初は俺がノストニアに不法侵入し敵対関係にあった。
だが今はどうだ、起こったことを水に流し共に過ごすことすらできている。
つまりはそう言うことなのだと。
「…………そうか」




