祭りの始まり
「あのバアル様」
「なんだ?」
「なんであんなにクラリスは睨んでいるのでしょうか?」
全員が起きて朝食をすますと、王族の使いが来て開会式のゲストとして招待された。
そしてその中にはもちろんクラリスもいるのだが。
「まぁ逆恨みだな」
「逆恨みですか?」
リンは納得していないがこれに関してはどうしようもないから話す必要はない。
「………………セレナ」
「なんですか~」
「その気持ち悪い顔をやめてくれ」
ぐふぐふ、と言いそうな顔になっている。
「仕方ないじゃないですか~まさかこんなに早く精霊と契約する機会が来るなんて~」
空にでも飛びそうな声色で嬉しそうに告げる。
「………あんまり期待しない方がいいわよ」
後ろでクラリスが悲しい声色でつぶやいている。
「なぁ、セレナはクラリスのことを知っているか?」ボソッ
「ええ、一応は加入できるキャラなので」ボソッ
なら多少の事情も知っているかもしれない。
「何か知っているか?」ボソッ
「知りたいですか?」ボソッ
肯定するとクラリスに聞こえないような声量で教えてくれる。
まぁ一言で言うとクラリスはエルフの中では落ちこぼれという奴なのだ。
『原則としてエルフは精霊と契約できてようやく一人前とされます』
『だが、稀にだが契約しにくいエルフがいるとウライトに聞いたが?』
『はい、ですが契約しにくいのであって契約できないわけではありません』
『…………その言い方だと』
『はい、クラリスは根本から違います、しにくいじゃなくて、できないです』
これで判明した、なんでクラリスが精霊に関して悲しそうにしているかが。
『でも、なんでだ?』
『それは分かりません、クラリスのエピソードには答えが無かったので』
これが普通のエルフだったら仕方ないで済まされるかもしれない、だけどクラリスは王族だ。
これが不祥事では済まされないのは想像に難くない。
『ほかにもね、弓の適性は低いし、魔力の量も普通の十分の一ほどしかないの、その代わりに』
『ユニークスキルを持っているか………』
人族からしたら実力者でも、エルフからしたら一生半人前どまりというわけだ。
(…………上手くいけば勧誘できるか?)
ユニークスキル持ちは人族の間では貴重だ。
大成できないエルフの国と身分の保証され将来も約束されたグロウス王国で身を立てること。
俺なら後者を選ぶ。
とりあえずクラリスが精霊と契約したい理由は分かった。
(この祭りで契約できなかったら本気で勧誘してみるか)
そんなことを考えていると神樹の根に囲まれているお広間にたどり着いた。
「では皆さまはこちらの席でご覧ください」
俺達は根の上に用意されている席に案内された。
(ここからなら見渡すことができるな)
そして同時に行事に関わることは絶対にできない立ち位置になっている。
(何においても邪魔するなよってことか)
丁重に持て成すふりをして、大事な行事に何かしないか関している訳だ。
(こちらは何もするつもりもないから、杞憂なんだけどな)
胸の内は読むことはできないので警戒するのも仕方ない。
「そろそろ始まるわよ」
俺の隣に座ったクラリスが始まりを告げる。
配置としては父上が一番端におりその隣に母上、俺、クラリスの順に座っており。
リン、セレナ、カルス、ノエル、カリンは一つ後ろの列で座っている。
と言ってもすでに全員前の手すりにくっついて広場を見ているが。
(まぁ背が足りないからな)
父上は180ほどで母上は170、俺は130ほどで、既にリンの身長(120)すらも抜いている。
カルス達に関しては十分栄養が行きわたってないからか、だいたい70あるかないかぐらいだ。
(いくら【算術】のスキルがあっても、前世ならまだ小学生なんだよな………)
そう思うとスキルのすごさを感じる。
そんな思考をしていると広場で動きがある。
広場に空間が空くとなにやら物々しい衣装を着たエルフが道を作る。
シャラン!!
大きな音が響くと全員がそちらに注目し始め。
音は空から響いており、そちらに視線を向ける。
「来たわね」
空には何やら豪勢な絨毯がおり、そこにはいつもの服装ではなく特別に仕立ててあるのがわかる服装のアルム、それと現森王のルクレ・ルヴァムス・ノストニア様がそこにいた。
その後ろには様々な楽器を持ったエルフが構えていて、アルムの絨毯が下りると同時に音楽が鳴り響く。
それと同時に下にいた様々な服装を着たエルフの中で軽装のエルフが踊りを始める。
舞踏では薄い布がいきかい、優美な雰囲気になる。




