困難の先には
「おいおい、マジかよ」
さっきとは比べ物にならないくらい強いじゃないか。
「ガル!」
無造作に包丁が振るわれる。
「っが!?」
その餌食になったのはラインハルトだった。
魔剣でとっさに防いだおかげで両断にはならなかったが、ステージの端まで吹き飛ばされ気を失う。
狼はラインハルトに興味をなくして俺たちに狙いを定める。
「!!『飛雷身』」
俺の頭上に振り下ろされた剣を確認すると飛雷身で避ける。
「………????」
土埃が収まるのだがそこに俺がいないのを狼は不思議がっている。
(危なかった、あんなの食らえばミンチになる)
剣が振り下ろされただけなのに爆発したかのように地面がえぐれている。
「……ガル」
「っはぁ!」
次の標的は唯一認識できているリンになった。
「『風柳』」
そして横なぎに振られた包丁に合わせて刀を合わせると包丁の勢い流されずその場で包丁を受け流した。
(やはりすごい技量だな……)
俺はリンの腕前に舌を巻く。
それから何度も包丁を受け流すのだが、最後に嫌な音が聞こえた。
バギッ
「っ!!」
リンの刀にひびが入り始めたのだ。
このままでは負けるのは必然だろう。
頭を働かせていると視線を感じる。
そちらを見てみるとリンがこちらを見ている。
(………分かったよ)
俺はなけなしの魔力を消費して全力の状態になる。
(時間からして5秒持つかどうか)
俺はすぐに動き始める。
(有利にするために五感をできるだけ削る)
まずは猫背の背中を駆けあがり、短槍で眼球を切りつけ視界を奪う。
「ガァアアアアア!!!!!!」
狼は両手で目を押さえて暴れまわる。
(あと二秒…)
頭をフル回転させてほかに何ができるか考えていると、視界の端に狼が落とした肉断ち包丁が目に入る。
それで閃いた。
一秒で包丁の場所に行き柄を持つと、また一秒で狼の頭上に移動する。
だが狼は動きを止めて目から手を離した。
(まずい、今この姿を見られたら……)
既にユニークスキルは切れており、重力に引かれて自然落下している。
それゆえに狼は視認してから避けるなんて十分あり得るのだ。
だが、もう俺は魔力がなく打つ手がないのだ。
そんな時に不自然な暴風が巻き上がる。
(……リンか)
制御はできてはいないがユニークスキルの暴風で大量の土煙を巻き上げて再び視界を奪う。
(助かる)
そして――――――
何やら揺られるのを感じながら目覚める。
「あ、起きましたか若様」
どうやら俺はラインハルトに背負われているようだ。
「まだ動かない方がいいですよ、あの大型を倒したのはいいんですが、まだダメージが残っていますか」
確かに腕を動かそうとすると錆びた人形のような動きになる。
「……今どこに向かっているんだ?」
「帰還しています……と言いたいのですが残念ながらあの後でも帰る扉は開かず進むしかなかったわけです」
なるほどな。
「リンはどうしている?」
「前にいますよ」
リンはこちらを見向きもせず前方を警戒している。
「……リン」
「何でござるか」
返ってきた言葉には不機嫌さが混じっている。
「最後は助かった」
「っっっっっっっっ」
何やら動揺した感覚がように見えるが全くこっちを見ないから確認はできないが。
しばらくすると俺も動けるようになったのでモノクルを取り出し、自分の状況を確認する。
――――――――――
Name:バアル・セラ・ゼブルス
Race:ヒューマン
Lv:27
状態:魔力枯渇症
HP:31/578
MP:43/894
STR:67
VIT:58
DEX:78
AGI:85
INT:112
《スキル》
【斧槍術:28】【水魔法:2】【風魔法:2】【雷魔法:11】【時空魔法:3】【身体強化:5】【謀略:17】【思考加速:7】【魔道具製作:8】【薬学:2】【医術:7】
《種族スキル》
《ユニークスキル》
【轟雷ノ天龍】
――――――――――
……すさまじいステータスになったな。
この数値は物語になどにある、英雄が有名に成る少し前ほどの数値だ。
「これは……すごいですね……」
ラインハルトは俺のステータスを見ながら驚嘆する。
「なぜここまでの伸びが……」
ステータスの伸びは二つの要因で決まる。
レベルアップ、それは簡潔に言うと容器に液体を注ぐようなものだ。
まずは体の方を器としよう、これは鍛えれば鍛えるほど液体を入れられる量が増えていく。そして液体の方だが、これはレベルアップのたびに一定量器に入れられる。ステータスの数値はどれだけ器に液体を収められたかで決まる。
レベルアップごとに入れられる液体は限られていて、次回に使いまわすことなどはできない。
そしてほとんどの人物がレベルアップごとにもらえる液体を器に入れきれてなく、無駄にしているのだ。
その点、俺はあの超常の存在から教えられた最適な器の鍛え方を実践しており、レベルアップごとに手に入る液体を漏らさずに器に納めているがゆえにステータスはこの伸びしろを保っている。




