逆転の立ち位置
「ではこれにて」
ソフィアは書類を持ち、帰っていった。
「まさか、だったな」
ソフィアの正体………平民なのに特待生クラスに所属しているからある程度の家の出だと予想していたのだが。
「想像をはるかに超えた存在だったか」
これが敵にしていたら厄介だが、味方よりのほうだ、何も問題ない。
「戻りました」
「ました~」
リンとセレナが帰って来る。
「?誰かいましたか?」
「ああ、ソフィアが訪ねてきた」
「へぇ~あの子が、なんで?」
二人とも面識があるのだが、それゆえになんで来たのか不思議に思っている
「説明するとだな―――」
あの四人が貴族たちに言い寄られ、拒否し、嫌がらせされていることを教える。
「じゃあ、安定のルートを通ったんだ」
「……………」
無言でセレナの頬を引っ張る。
「いひゃい!いひゃい!」
「だからなんで先に言わないんだ?」
「こりはびゅんきせんちゃくだからよひょうできないのひょ」
選択によって訪れる場面が変わるので確定ではないと言いたいらしい。
「仕方ない、じゃあそのゲームとやらでこの路線の他のどんなのがあったんだ?」
「えっと、貴族と真っ向から戦うルートと王族に助けを求めるルート、あとは国から離れて旅人になるルートね」
「俺に助けを求めてくるルートは普通なのか?」
「いえ、とてつもなく難しい条件だったわよ」
「じゃあこの先は?」
「何もないわよ、バアル様のおかげで二年生になるまでの間に鍛えることができるようになるだけ?」
「……それは物語的には他の選択がいいんじゃないのか?」
物語からしたらイベントがある方が色々と旨いんじゃないか?
「ないわね、この時期はすべて労力と報酬が見合ってないイベントばっかりなの、しかもイベントでは次につながるキーもないし、この時期はクエストとかで鍛えている方が全然よかったのよ」
「…………イベントというのは分からんが辿れる運命の内、これは何もしない期間と言うことか?」
「そうです」
まぁそれなら問題ないか。
「ちなみにだが俺が関わりそうなイベントとやらはあるのか?」
「……………ないと思うのだけど」
だけど?
「本来ならノストニアにバアル様は出ないはずだから、絶対って言えないの」
やはりすでにある程度既定路線は外れているんだな。
(となると、知っている程度でとどめている方がいいな)
セレナの言葉は頭に掠めておくぐらいでいいだろう。
「とりあえず飯にしよう」
「そうですね」
「あっ、バアル様は手伝わなくて大丈夫です」
と言うことで料理の間、俺はまた書類を片付けることになった。
「なぁバアル、この顔を見て申し訳ないとか思わない?」
ゼブルス領に戻る馬車で父上が話しかけてくる。
父上の顔は少しやつれている。
「ないです、他家の交渉は当主である父上の仕事ですから。それにそもそも手伝うとしても補助する程度ですよね?なのに父上はほとんど俺に丸投げして補助に徹しようとしますよね?「それは経験をつませようとと」経験を積ませようと言ってますが、それならまずは父上が見本になるべきですよね?それに本来俺は当主のような決定権はないんですよ?なのに最近は父上よりも話が早く進むからと文官が父上の案件も俺に回してくるようになっているのですが?「そ、そうなの!?」そうです本来なら父上と協議して物事を進めるところをまずは俺に助言を求めて、ある程度案が固まったら父上に持って行くようになっています。その案件も父上に戻してもいいのですか?「か、勘弁してくれ」ではこれくらいはこなしてください、俺は俺でいろいろな書類仕事をしているんです、本来なら勉強や稽古、イドラ商会に時間を費やしたいのに、だいたい俺はまだ8歳ですよ本来なら――――――――――」
それから日が暮れるまで父上が反論できないように言う。
トントントン
馬車の扉が叩かれたので話を追える。
「どうした?」
「宿場町に到着しましたので宿への移動をお願いします」
「わかった!!!!」
父上は助かったという顔をして馬車を軽やかに降りる。
(はぁ~反省してないな)
俺も馬車から下りて父上の後をついて行く。
(ふつう逆じゃないかな…………)
馬車の中での親子のやり取りと宿に入る光景を見てそう思う騎士の一人だった。




