わけあり少女の頼み事
ノストニアから指輪と武器を賜ってから王都に戻って来たのだが、帰還から数日後、なぜだが接点もない貴族がそれぞれの家に訪問してきたらしい。
内容は上から目線で部下にしてやるというものだった。
(まぁ十中八九、ノストニアの交易に噛みたい連中の使いだろうな)
なにせあれはノストニアからの感謝の印でノストニアの通行許可証みたいなものなのだから。
「当然、全員の両親は断りました」
これが普通の民なら渋々であるが従うだろうが、アークの両親は有名な冒険者で、オルドは道場の師範の息子、カリナは没落騎士の娘で、リズの母親は学者、なので全員が貴族に様々な思惑があるのは理解しているので角が立たないように断ったのだとか。
「私は教会の保護があるので勧誘は来ませんでしたが、ほかのみんなは違います」
それぞれの仕事に差し障るような妨害をはじめ、悪質な嫌がらせ、果ては近隣に暴力沙汰が蔓延り始めたという。
「このままでは身内を攫われ、脅迫されるのも時間の問題です」
「それで?俺にどうしろと?」
ソフィアの話を聞いているが何の興味もない。
「貴方様ならこの事態を何とかできるはずですので………」
「何とかしろと?断るよ」
考えることもなく断る。
「なんでですか!?」
「いや、俺に益もないし、その貴族のもっと上の方からは目の敵にされるからさ」
そいつらはノストニアの交易に噛みたい奴らの派閥の中での使いっ走りの末端貴族だろう。
そんな奴らほどプライドが高く、わざわざ平民に頼み込むなんて死んでも嫌なのだろう。
「もしなんとかできるとしても、それはお前たちは俺の庇護下に入ると理解しているか?」
「はい」
「その時は俺はそいつらと同じ命令をするぞ?」
当然俺だって利益は欲しい、なので比較的好意的なこいつらを使って譲歩を引き出したりする。
「ということで俺に頼るのは間違いだ」
そう言って追い返そうとするのだが。
「では益があれば保護のみしてくださるのですね?」
ソフィアは何かを決めた表情をする。
「ほぅ、じゃあどんな益を俺にもたらせるという?まぁアークのみなら保護するのはやぶさかじゃないがな」
ユニークスキル持ちは貴重だからな。
「いえ、私が望むのは全員の保護です」
「対価は?」
「神光教会と何かあった際に私が仲裁に入ります」
思わず笑いそうになる。
「残念ながらその手札は意味がない、なにせ君自身が信用に値しない」
一介の修道女見習いに何ができると言うんだ。
「ではこれを見てもそう言えますか」
そう言いながらソフィアは何かを取り出す。
「………へぇ~~」
取り出されたものを見て、思わずにやけてしまう。
「それを持っていることを知っているのは?」
「………父上と私の世話係、あとは数名の枢機卿だけ」
「陛下もこのことは知らないと?」
コクリと頷くソフィア。
「ふっふふ、はははは、いいね、いいね」
ソフィアの正体ならよほどの大ごとでない限り教会に介入することはできそうだ。
「いいだろう、交渉を始めるとしよう」
俺は紙を取り出し条文を書く。
内容は三つ。
・バアル・セラ・ゼブルスはアーク・ファラクス、オルド・バーフール、カリナ・イシュタリナ、リズ・アラニールの上記四名をノストニアの交易に関連させないよう保護すること。
・ソフィア・XXXXXXXはその代償に神光教にバアル・セラ・ゼブルスの要求を受け入れさせるように尽力すること。
・バアル・セラ・ゼブルスとソフィア・XXXXXXXはこの契約のことを他人に伝えてはならない。
「さてこれでいいか?」
「ええ」
違反したときの罰則はないのだが、俺がソフィアの正体を知っている。
(もしだめだった場合は彼女の身柄を拘束するだけだ)
たとえそれが捏造した罪だとしても。
「それでバアル様はどのようにアークたちを保護するつもりですか?」
「簡単だ」
俺は4枚書類を準備する。
「これにアークたちに署名してもらえ」
「……なるほどそう言うことですか」
ソフィアも文を読んで俺が何をしようとしているのかを理解した。
「さてこれで話は終わりだ、その書類に署名したらゼブルス邸にもってこい」
「わかりました」
こうして俺は4人を保護する立ち位置になった。




