西はエルドに付いたのか
「では、このような案でよろしいですか?」
俺は陛下と財務大臣、グラス近衛騎士団団長に支払いを待ってもらう代わりに利息として返済までゼブルス家への減税を約束させた。
(もっとも俺のイドラ商会を重点的にな)
これによりさらに安価で売り出すことができる。
無論これには陛下にも恩恵がある。
(なにせ魔道具が広がれば、裏の騎士団の活躍範囲が増えるからな)
さらにノストニアに関しては免税と約束させた。
(まぁアルムはすでに通信機のことは知っているけどね)
話がまとまると財務卿は書類を作りに退席した。
「さて、これで満足したか」
「はい、私の愚案を飲んでください感謝しております」
「はは、本当によく頭が回る」
今回の場合俺がとる手段は利息が付くか、税を軽くするかどちらかだ。
そしてそれがどちらも同じ金額ほどだったら、より使えそうな方を取ることになる。
利息だけならただ支払いの額が増えるだけだが、減税の場合は魔道具がさらに売りやすくなる、そして魔道具が広がると通信機の範囲も広がる、結果的に裏の騎士団が行動しやすくなる。
これらを加味したうえで減税を選んだ、いや俺がそう誘導した。
そしてその誘導に陛下は乗ってくれたというわけだ。
「そういえば、バアル君は婚約者を選ばないのかね?」
「………残念ながらまだまだやることがありますゆえ」
陛下の言葉の裏にはどこの派閥に所属するのか、と尋ねている。
そして俺はまだどの派閥に所属するか決めてないと伝える。
「私からも一つ質問をよろしいですか?」
「よかろう」
「では陛下は両殿下のどちらが未来の陛下にふさわしいと思いですか?」
これには部屋の気温が数度下がったと錯覚した。
「不敬だとは思わないのか?」
陛下は答えずにグラスがそう注意してくる。
「失礼しました、ですが私も決めかねているのですよ」
知恵のあるエルドか、武勇に優れるイグニアか。
「それを聞いてどうする?」
「なにも、ただ陛下がどのようなお考えを持っているか聞きたいだけです」
グラキエス家の密約がある限り、俺は裏ではイグニアに協力している。
それゆえにここで陛下がどちらがふさわしいか聞く必要がある。
ここでエルドと答えたら、俺はグラキエス家の密約を反故にする可能性も出てくる。
「ふむ、そうだな、両方とも王の資質は持ち合わせている」
普段イグニアの様子を知っているなら不思議に思うところもあるだろうが、アレはある意味年相応なのでおかしくはない。
エルドのような智がなくともイグニアは武で貴族を束ねることもできるだろうから。
そしてその資質は十分あるらしい。
「それはどちらも可能性があると?」
「うむ」
つまりはどれほど功績を残せるか、自派閥がでかくすることができるかで決まる。
(ここでどちらかと断言してくれれば楽だったけどな)
となると仕方ない、裏で消極的に協力しつつ情勢を逐一確認しなければならない。
それから領地の様子や裏の騎士団のことを話し合うと俺とリンは会場に戻って来た。
「話は終わったかい?」
俺達を見つけた父上は詳細を聞いてくる。
「ええ、2年に渡り分割支払い、さらには利息として当家への減税を約束させました」
「…………陛下にご無礼は行ってないよな?」
「ご安心を無礼を無いようにしたつもりです、不安があるようでしたらグラス殿にお確かめください」
「それほどまでなら大丈夫だろう」
それから父上は再びこの場を離れて貴族との話し合いを始める。
(さて、少し腹が減ったな)
リンを引き連れて食事をしようとテーブルに向かおうとする
「やあ」
「おい」
途中で後ろから声を掛けられる。
(めんどくさいのに声を掛けられた)
本心ではそう思っても表面では笑顔で取り繕う。
「お久しぶりです、殿下」
「………」
リンは俺の顔を見てなにやら呆れている。
なにせやってきたのがエルド殿下と深緑髪の少女、それとイグニアとユリアのペアだ。
「実は君に話が」
「おい、俺の方が先に話しかけただろ!」
「知らないね、僕は彼女を紹介しようとしているんだ邪魔しないでくれないかな」
「それこそ知るか、バアルは俺の陣営なんだから俺が先なのが道理だろ!!」
(おい、何で知っているんだよ)
グラキエス家の密約で裏では確かにそうなってはいるが……
「それはバアルも認めているのかな」
「違うが、いずれ俺の派閥に加わる!!!」
(ああ、こいつの思い込みか)
それなら何の問題もない。
「失礼ながらエルド殿下、イグニア殿下」
「「なんだ?」」
「顔見知りならともかく、私は彼女を知りません、なので先に紹介の方をお願いします」
俺はエルドの連れてきた少女を見ながらそういう
「そうだね」
「っち」
この場でわかりやすいくらいの舌打ちするなよ。
「それでは紹介するよ、彼女は僕の婚約者」
「レイン・セラ・キビクアと申します」
やはり彼女はキビクア公爵家の縁者だった。
「ご丁寧にどうも、私はバアル・セラ・ゼブルス。たまに『破滅公』とも呼ばれるものです。キビクア公爵の令女ですか?」
「はい、私は次女です。本来ならお姉さまがいいらしいのですが年が離れすぎているようなので私にお話が来ました」
聞いた話だとキビクア公爵の長女はすでに15歳と成人しているようだ。
(前世だとそれくらいの年の差でも結婚する奴はいるんだけどな)
この世界では年齢が5つ違うだけで結婚は難しいとされている。
「では紹介ついでに私の要件を話そう」
「おい!」
「イグニア様、ここは落ち着いてください」
ユリアに窘められてイグニアが大人しくなる。
「(上手く制御で来てるな)それでお話とは?」
「まずはノストニアの使節団を救出してくれたことには感謝する」
まずは感謝の言葉を述べてくる。
「いえ、お気になさらず貴族として陛下のお役に立てたのなら何よりです」
エルドならここで王族もしくは殿下と言わない当たりを察するだろう。
「それでだバアル、君はノストニアに知己はできたか?」
「ええ、親しい友人ができましたよ」
「それは上々、実はその件の話なんだよ」
「つまり?」
「僕は王族としてノストニアの王族と知己を作りたい協力してくれるかな?」
あ~そんな頼みごとをしたら
「ちょっと待て!!」
当然、止めるよな。




