変わりゆく情勢
それから一段と音楽が鳴り響くと同じように男女のペアが中央に集まり踊り始める。
一応は踊りも習ってはいるのだが、正直苦手だ。
リンの筋はかなりいいみたいで講師もほめていた。
「はぁ~」
先のことを考えて気が重くなる。
「踊っている最中ですよ」
リンにため息をつくなと窘められる
「仕方ないだろう……アレを見てみろ」
俺達は踊りながら不自然の無いように周囲を確認する。
「……確かにこの後はすごく迫られそうですね」
「だろ」
まぁ簡単に言うと令嬢が獲物を見ているような目を俺に向けているんだ。
「まぁリンも注目されているけどな」
「え?」
「ほら」
リンの視線を誘導する、するとリンは顔を顰める。
理由は視線の先にいる三人にある。
「………バアル様、何とかなりませんか」
「俺は用事がある、今回はこれで終わりだ」
「では、私も護衛として同伴しましょう」
と言うことで一曲目が終わるまで踊りを続ける。
パチパチパチパチ
演奏が終わると周囲から拍手が始まる。
「じゃあ移動するぞ」
曲が終わると中で踊っていた人は外に出て次の人と交代する。
そして俺が嫌だったのは。
「バアル様、次は私と」
「いえ、わたくしとお願いします」
「ぜひ、私と!」
踊りが終わり外に出ようとすると多くの令嬢が詰め寄ってくる。
「すみませんが、相談事があるので、本日はもう踊るつもりはないのです」
そう言うと攻めよってきた令嬢はしぶしぶ離れていく。
「いいのですか?」
「問題ない、それに本当のことだしな」
と言うことで陛下の元まで移動する。
「っと、その前に」
ちょうどよく通り道に重要人物がいる。
「お久しぶりです、グラス殿」
「ん?おお、バアル殿か久しぶりだな」
テーブルに置いてある食事を取っているグラスに声を掛ける。
「それにしても意外だ、よく令嬢の壁から抜け出せたな」
興味深そうにそう見てくる。
おそらく令嬢に囲まれるのを予想で来ていたのだろう。
「まぁ、余興として一度踊れば十分ですし、私はそれ以上に例の件のお話をしたいのです。陛下に取次ぎをお願いしてもいいですか」
「ああ、少し待っていろ」
皿を徘徊しているメイドに渡すとそのまま、陛下の元へ行き耳打ちをする。
そして何かを伝えられると戻ってくる。
「ではついてきてくれ」
ということで一度会場を抜け出し傍にある応接室の一つに移動する。
「一応確認だが、ゼブルス卿には許可を取っているか?」
「大丈夫です、もともとこれは私に任されていることなので」
そういうとわかったとつぶやき再び部屋を出ていく。
「ふぅ~、このまま帰りたいな」
「残念ながらそうはいきません」
「わかっているよ」
愚痴も溢したくなる、これが終わると再び踊りのお誘いが来るだろう。
(…………それにしても、エルドの連れていたパートナーは)
深緑色の髪はキビクア家の特徴、さらにはキビクア公爵の子供の数が聞いていたよりも少ない。
となると答えは明白。
「キビクア公爵家はエルド殿下に加担したか」
これで情勢が一気に動く。
東のハルアギア家は年頃の娘がいないので比較的つながりの強いグラキエス侯爵家の娘をイグニアの婚約者にし、西のキビクア家はエルド殿下についている。
ゼブルス家とアズバン家、つまりは北部と南部は中立を保っている。
(少し遠い縁の分、イグニアの方が少し劣勢か)
血の濃さ程度でと思うが大事なファクターなのだ。
(さて、どう動こう)
どちらに着いた方が利益がでかいか考えているとリンがふと思い出した表情になる。
「そういえば、第一王妃様はおらっしゃられないのですか?」
「……それ、陛下に言うなよ」
俺はリンに説明する。
「なぁ、なんでエルドとイグニアが争っていると思う」
「???どういうことですか?」
「思っていることを何でも言ってみろ」
リンは少し考えこむ。
「エルド殿下は第一王子として本来なら継承権が優位にあった、ですが同じ年にイグニア殿下が生まれ、ユニークスキルという才能を持ち合わせたため、イグニア殿下を王にしようとする勢力が現れた」
リンにしてはいい線をいっている。
「たしかにその考えも持つ奴がいる、だがエルドがイグニアを将軍にすると約束すればエルドはすんなりと王になることができるだろう?」
「あっ、そうですね」
これだったら多少不満も残るだろうがイグニアは地位と権力を所持することができ表面上は安定する。
「でしたらなぜ?」
「……さっきの第一王妃様が関わっているんだよ」
「それはどうゆう」
コンコンコン
説明しようとすると扉がノックされる。
「陛下が参られたぞ」
返事をして陛下を部屋の中に招き入れる。




