貴族が必須とする、とあるスキル
それから武芸や歌、演劇の話をして親睦を深める。
「それにしても、噂は当てにならないですね」
話をして気が楽になったのかロゼッタが話題を振る。
「噂?」
「ええ、バアルさまは自分が破滅公って呼ばれるのをご存じですか」
何でもないように言うロゼッタに残り三人は固まる。
「も、もちろん馬鹿にしているわけではないですよ」
「それはなんとなくわかる」
慌てて否定をしてくるロゼッタ。
ワタワタしている姿は年相応だ。
「……気にしてないのですか?」
アンリが俺の様子を見ながら訪ねてくる。
「別に、それどころか恩恵があるからな」
「恩恵ですか?」
今度はウラキンが疑問を投げつけてきた。
「ああ、お前たちは俺が破滅公と言われて怒ると思うか?」
「え、怒らないの?」
ルズニが顔色をうかがいながら聞いてくる。
「なぜ怒る?面倒ごとが減っていいじゃないか」
こういうと4人は意外そうな顔になる。
「いいか、俺達上流階級にはいろいろな思惑を持って近づいてくる奴らばかりだ、だが俺は悪名のおかげで変な思惑を持つ奴は近づかなくなっている」
アンリとウラキンは納得しているけど、ロゼッタとルズニはなんとなくしかわかってないようだ。
「まぁその悪名は何も悪いことばかりではないということだよ」
そろそろ話題を変える。
「そういえばみんなはグロウス学園に通っているのか?」
「ええ、私は今年で中等部へ」
「自分は中等部2年です」
「わ、私は来年入学します」
「ぼ、僕は今年で初等部三年になります」
三人は年上で、ロゼッタだけ二つ下のようだ。
「へぇ~では―――」
そこからは中等部の様子や学園行事で何とか合間を繋ぐ。
「そういえば、バアル様は婚約者はいないのですか?」
ふいに思ったのかロゼッタがそんなことを聞いてくる。
そして3人が固まるのがわかる。
「今はいないな」
「なぜですか」
「いえ、まだまだ勉強がありますので当分は婚約などはしないでしょうね」
ここは無難に返す。
「でしたら私なんてどうですか」
ここでアンリが自分を売り込んでくる。
「自分にはまだ早いですね」
「では、時期が来たら考えてくださいますか?」
「……時期が来たら考慮しますよ」
とりあえずこの場をやり過ごす。
「ウラキンとルズニは?」
とりあえず二人に話を振る。
「自分はいますね」
「残念ながら僕は……」
ウラキンはいるようだがルズニはいない。
(領主の弟という微妙な立ち位置だとこの年で婚約は無いか)
出来ても家臣の中からで、他家の令嬢と婚約を結ぶのは難しいだろう。
「二人は?」
今度は女性側に尋ねる。
「去年に弟が生まれたので、私は探している途中ですね」
「わ、私は姉が3人いるので放置されていますね」
アンリは長女だが既に嫡男となる弟ができたので選択肢が広がる。
ロゼッタは四女なので別にそこまで焦る必要がない、同格の家の側室でもいいし、手柄を立てた家臣に下げ渡してもいい、もしくは家格の低い家に嫁いでもいい、さらには豪商の家に嫁いでもいい。
「みなさん、こういう話をするんですね」ボソッ
後ろでリンがそうつぶやく。
「まぁな、一つ聞くが全員【算術】のスキルは持っているよな」
これには全員が頷く。
「えっと、それがどうしたんですか?」
「なんだ知らなかったのか、【算術】のスキルは考える力を増やすスキルだぞ?」
【算術】というスキルは貴族にとって必須のスキルだ。
このスキルの特徴は計算が速くなる効果がある。
ただここでいうのは計算が速くなるというのは副産物に過ぎないことだ。
【算術】の真の効果は知能指数の上昇だ、この数値が高ければ大人同様の思考が可能になる。
普通ならINTが頭脳に関係しそうだと思いそうだが、あの超常の存在が言っていた、INTは記憶力、情報処理能力に関係しているだけで知能指数はあまり関係ない、と。
つまり知能指数に関係するのは別の要因がある、それが【算術】というスキルだ。
なので貴族世界で【算術】を持つ子供が大人と対等に話し合う光景は珍しくない。
現にユリアは【算術】が進化した【策略】、俺とエルドはさらに上の【謀略】を持っている。
それゆえに大人のような思考をして当然という風に捉えられる。
なので俺が前世の記憶があり、子供らしくない行動をしてもおかしくないとみなされている。
(おかげで黒歴史を作らなくてすんだよ)
大人の精神で子供の真似は精神的苦痛がある。
「というわけで貴族は子供のころから【算術】を得られるように教育するのが普通だ」
もちろんすべての家がそうとは限らないが、ほとんどの家がそのような方針を取っている。
「証拠に、俺は領地の政務に関わっているし、エルドは大臣の手伝いをしていると聞く」
「なるほど」
リンは俺の説明で納得する。




