そっちがその気なら、やり合うまでだよ
「………なんのことだ?」
弱み……………全く心当たりがない。
「魔道具の義手って言えばわかるな」
……キラのことか、だがあいにくあいつ関連で俺の弱みが漏れ出ることなどなさそうだが。
「お前のところで雇われているそいつが合宿の際に禁薬に手を出したと皆が知ったらどうする?」
言いたいことがなんとなくわかった。
(こいつかなりの見当違いをしているな)
キラは元々俺だし、裏の騎士団ひいては陛下も合宿でキラが禁薬を使用したことを知っている。
そしてこいつは俺とキラが未だに雇われている状態で禁薬に手を染めたと噂にするぞ脅している。
これが社交界で噂になればゼブルス家の評判は落ちる、さらには禁薬を使用したということで国から何かしらの罰が下るかもしれない。
裏の騎士団はあくまで秘密組織、存在を公にしないので、表向きは突然トロールが発生したと発表している。
これに噂が広まれば、真相が嘘で塗り固められてしまう。
そうなれば真相を知っている陛下でも罰を下す判断をするだろう。
だが
「そうですか、ではなぜニゼルはそいつを知っているのかな?」
「………何が言いたい」
俺が余裕を崩さないことに違和感を覚えているニゼル。
「いえ、信じてはもらえないともうのですがそいつは私が学園に入学する前に消えた存在なんですよ」
「………信じられないな」
「ええ、なので私はその証明をしようと思います」
「証明?」
「ええ、そいつの首を晒すことにしますよ」
俺が何事もないように言ったことに驚いているのが手に取るようにわかる。
「でははじめにゼブルス領以外の魔道具を停止させるとしましょう」
「なんだと!?」
これにはさすがにニゼルも驚く。
「そんなことができるのか!?」
「もちろん、それとニゼル君が知っているということはアズバン領に滞在しているのかな?だったらアズバン領だけ停止させますか」
「やめろ!」
いくらニゼルでも、食料の貯蔵や浄水に魔道具を使用しているのは知っているだろう。
「いえ、短期間だけですよ。そいつを捕らえ終え、知っていることを総て聞き出したらすぐさま魔道具を使えるようにしますよ」
ニゼルは焦った顔になる。
なにせ自分の領地の魔道具が止まるうえ、キラが捕まれば自分の悪事が漏れ出る可能性が出ているからだ。
そして今度は俺が小声でささやく。
「ニゼル、お前、そいつに何か依頼したんだろ」
「!?」
「それもさっき話に出た禁薬に関してだ」
すると口をパクパクと動かし茫然とする。
「情報を持っているのがお前だけだと思うなよ」
俺はニゼルの腕を外す。
そして今度は俺がニゼルと肩組む。
「さて、アークたちを殺すために禁薬に手を付けたニゼル君」
するとビクンと固まる。
「こっちは疑惑だけじゃない証拠も持っている、まぁあいつを追いかける過程で知ったことだけどな。………さて本題に入ろう」
ニゼルは青い顔になるのがわかる。
「俺はノストニアの王太子、いや今年で陛下になる方から魔道具を卸してほしいと頼まれている。そしてグロウス王国はノストニアと深く交流を持ちたいと考えている、これは陛下にも確認済みだ」
「陛下も?」
「ああ、だから馬鹿な貴族が横やりを入れてこないように厳重に注意しているのが現状だ」
何が言いたいのかわかってない顔をしているニゼル。
「一言で言うと、ノストニアの交易での税を軽くしろ、ああ、もちろんイドラ商会には一切税をかけてくれるなよ、掛けたらどうなるかわかっているな?」
「いや、待ってくれ!バアルのところは知らないが、俺のところはそれでは無理だ」
「それでもやれ、拒否は許さん」
俺は先ほどの脅しの件でニゼルを敵とみなした、ならば遠慮などしない。
「何だったら俺が陛下にとりなしてやろうか?ノストニアの交易で好感を得るために向こうが希望している魔道具の税をなくす案を。もちろん子息であるお前も一緒にこの案に賛成しているなら陛下の承諾をとりやすくなる。陛下の承諾さえ取れればアズバン卿には事後承諾で十分だしな」
「っっっっっ」
絶句しているのがわかる。
「何も俺は意地悪をしているんじゃない、お前が国のことを考え、領地のことを考えて父親に進言するんだ。益は下がるだろうが国に貢献したとみられるし、父親からも称賛を得られるかもしれないよ?」
「……わかった」
ニゼルは優れない表情で頷く。
「ただ、俺が父上を説得できなかったら陛下への進言を手伝ってもらっていいか?」
「ああ、それくらいなら、それと証拠隠滅を行おうとしてももう無駄だからな」
ここできっちりとくぎを刺す。
「…………合宿の件は黙っててくれるんだろうな」
「合宿、はて、なんのことだ?あれは急に魔物が発生しただけだろう?」
俺がとぼけたのを見てニゼルもとりあえず納得した。




