パーティーの仕組み
「…………………憂鬱だ」
馬車の中で王城を見ながらため息を吐く。
「ダメよバアルちゃん、会場でもそんな顔をしたら」
「わかっていますよ、きちんと会場では笑顔になりますよ」
堂々とした猫かぶりの宣言だが、両親は何も言わない。
これが社交界をあまり理解していない子供なら親は注意をして社交界の重要性を教え込む。
だがその重要性は理解しているので、これだけで済んでいる。
「はぁ~」
もう一度大きなため息を吐く。
王城に到着すると控室に案内される。
「はむ、う~んやはり腕のいい料理人がそろっているようだな」
「そうですね」
両親は机に置いてあるクッキーを食べる。
俺も一つ摘み口に入れる。
(甘みも少なく、ちょうどいいな)
上品な味が口に広がる。
「パーティーが始まるのに間食を取るのですか?」
今回、リンは俺のパートナーとして連れてきている。
王城なので武装は許されないが、ユニークスキルを持っているので何ら意味ない。
ほかにも攻撃性のない装飾品は許されているので、リンの腕に納まっているユニコーンリングはそのままだ。
あり得ないのだが毒殺の可能性もある、それゆえに護衛として連れてきているのだ。
「ああ、俺たちは食べにくい立場だからな」
そしてリンの疑問に答える
なにせパーティーが始まると俺たちの周りには貴族が集まってくる。
そうするとろくに食事がとれなくなる場合があるのだ。
「まぁ、まだ今回は楽な方だけどな」
「楽ですか?」
「今回はエルドとイグニアがいるからな」
これがどちらかの陣営のパーティーで招待されたのならば陣営に取り込もうとしてくる奴らばっかりだ。
だがこれは陛下主催の全貴族が招待されたパーティーだ。
なので大胆に行動はできない、せいぜいが友好的にしようとするために近づく程度だ。
「だから今回は中立派閥をまとめていればいいだけなんだよ」
ある程度世間話をしたらそれで無事に終わるはずだ。
それからメイドの案内でパーティー会場に案内される。
「意外に時間がかかりましたね」
「それは仕方がない」
パーティーの仕組みとして位の低い貴族が最初に会場に入って、徐々に位の高い貴族が遅れて会場に入ってくる。
「主催者はどうするですか?」
「これは場合によるな、自身よりも位が高い貴族を招待する場合は最初から会場に居なければいけない、だが自分以上の位の者がいない場合は最後に登場するのが普通だ」
ということで今回は騎士の称号を持っている者から、男爵、子爵、伯爵と言ったふうに会場入りする。
「それでいうと俺たちは最後から二番目に入るからな、結構遅いんだよ」
と言うことで侍女に連れられて、廊下を進む。
「おや、ゼブルス卿ではないですか」
わき道から見たことある人物が現れる。
「これはアズバン卿、お久しぶりですな」
父上があいさつしたのは話題のアズバン公爵だ。
「バアル君も久しぶりですね」
「ええ、ノストニアの件で協力してもらい、ありがとうございます」
「いえいえ、陛下の命令とあれば快く協力させてもらいます」
暗にゼブルス家の要請だとこんなスムーズには行かないと言っている。
俺とも挨拶を交わし、共に侍女に案内される。
「それにしても、優秀なお子さんですね。陛下からの覚えもめでたいようですし」
「そうですよ、バアルは優秀なんですよ」
父上とアズバン卿は先頭を並んで歩く。
(アズバン卿はスラッとしているのに父上ときたら)
後ろから見たら同じ男性とは思えない。
「久しぶりだな、バアル」
「ニゼルもな」
俺の横に来たのはニゼルだった。
「ノストニアで交易をするのはうちだからな、手を出すなよ」
双方の両親がいるのに、すがすがしいほどの独占宣言をした。
「ノストニアの交渉をまとめたのは俺なんだが?」
「ああ、でも、それはアズバン領で行われることだろう?」
そういうと勝ち誇った顔になる。
「無理だな、ノストニアや陛下の要請でイドラ商会から魔道具を売ってほしいと打診があった」
「ああ、だが売るのはなにもイドラ商会からじゃなくていいだろう」
こいつの言いたいことが理解できた。
つまりは自分たちに魔道具を卸して、そこから自分でノストニアに販売するつもりだ。
これがリスクのある取引だったらそれでもいいが、すでにアルムの手回しなどでリスクは無いに等しい。
「断る」
「……少し耳を貸せ」
断ると肩を組んでくる、奇しくも以前アドバイスした時の反対の図となった。
「俺はお前の弱みを一つ握っているぞ」




