どんなイメージを持っているか知らないが現実は綺麗ではない
雪解け道を進み王都へと目指す。
「「「わぁ~~」」」
カルス、ノエル、カリンは馬車の外を見てはしゃいでいる。
「今回は連れてきても良かったんですか?」
「ああ」
「私、貴族じゃないんですけど…………」
「それも問題ない、王都でのパーティーには出れないが豪勢な食事が出ることは保証しよう」
と言うことで今回は全員連れてきた。
さすがに政治闘争があるパーティーはこの四人には早いので向こうの館で待機してもらうことになるが。
「パーティーの名目は今年の息災を願ってですか」
「名目はな」
なので毎年恒例と言ってもいいほどだ。
「年をとってもいいことはないのに」
前世を持っていうセレナがしみじみと言う。
若い時なら大人に近づいていることに喜びを感じていたが20を過ぎるとただただ虚しいだけだったな。
「そういえばリン、一つ注意しておくことがある」
俺はユリア嬢が今回のパーティーに出席することを伝える。
「ユリアが、ですか?」
「もし話しかけられても親しそうにはするな」
イグニア殿下の婚約者と俺の部下が懇意にする。
ただこれだけで俺はイグニア派閥よりだと考えられる可能性がある。
「でも学友なんでしょ?だったら何の問題もないんじゃ?」
俺はセレナにため息をつきたくなる。
「事はそう単純じゃないんだよ、ゼブルス家が男爵、いや子爵ならそのような対応をしてもいい。低級貴族は人脈を増やすのが防衛手段と言ってもいいからな、だがゼブルス家は公爵家だ。ここで誰と懇意にしているかとかはかなり重要になってくるんだよ」
友人の友人と言った具合に、少し離れた関係でも懇意にしているなら同じ派閥とみなされるのだ。
「そんなこと言ったら学友すべてが同じ派閥だけになるじゃないですか?」
「その通りだ」
「……え?」
ここは前世と違い、学校で気軽に友達を作ると言ったことはまずできない。
ただ敵派閥とは最低限だけは接触してもいいとされている。
「にほんとやらの学園は知らんが、ここの学園は派閥の結束を強めるのと敵を見定める、つまりはどの家の令息が腕が立つか頭が回るかなど敵情視察の意味合いが大きいぞ」
「でも、自由な恋愛とかは………」
「できるわけないだろう?仮にできたとしたら、そいつらは婚約者が決まっていない同士、かつ同じ派閥、もしくは敵対していない派閥という暗黙の了解があるがな」
「なんか………思っていたのとは違います」
「お前がどんなイメージを持っているのかは知らないが、学園の貴族は学ぶ、人脈を作る、派閥の調整でそれ以外の役割は、基本は持たないぞ」
もちろん学生と言うことではめを外す貴族もいるが、そんな奴は後々白い目で見られる。
「ですが、ゼブルス家はグラキエス家と」
「リン」
こいつらの前でしゃべりそうになったリンを止める。
「グラキエス家?」
「何でもない忘れろ」
「!?はい忘れました!!!!」
セレナに釘をさすと怯えながら首を振る。
「リン」
「申し訳ありませんでした」
「………今回は許す」
実際、裏では支援を約束はしているが、俺が言っている支援は物資的な意味合いが強い。
「だからリン、ユリアと必要以上慣れ合うなよ」
「………はい」
数日掛けて王都に到着するとパーティーの準備に勤しむ。
「ねぇ、バアルちゃん、これなんかどう?」
「……………………いいですね」
「そう!…でもやっぱり前の服の方が…」
現在王都のゼブルス邸にて俺は着せ替え人形になっている。
(王都の有名なデザイナーに任せておけばいいのに………………)
心の中でそう思うが決して言葉には出さない。
なぜなら
『バアルちゃんの衣装は私が選びます!!』
といい、予約していたデザイナーを勝手にキャンセルして服だけ用意させたのだ。
なので仕方なく、俺は付き合っている。
ちなみに父上なのだが。
『あなたはこれね』
『……………私には選んでくれないのか?』
『あなたのお腹だとどれ選んでも微妙ですから、好みで大丈夫ですよ』
と言われて撃沈していた。
(いや、まぁ母上も悪気がないのは分かる。実際父上のあの腹だとどれを選んでも無難と言う言葉しか出てこないだろうし)
と言うことで父上のしわ寄せも俺に向かって来ている訳だ。
「バアル、わかっていると思いますけどパーティーでは注意するのですよ」
「もちろんです」
意訳すると、下手に言質を取られるな、というものだ。
「それにしても、やっぱりバアルちゃんの衣装は選び甲斐があるわね~~~~!!」
(いつまで続くんだろう……………………)
鏡を見ると死んだ目をしている俺が見える。




