リンの研鑽
「では、最後にバアル様とリン殿の模擬試合」
俺はバベルを構えて、リンは宝刀“空翠”を構える。
「では、はじめ!!」
ラインハルトが宣言した瞬間、衝撃が周囲に響いた。
共にユニークスキルを発動してステータスの底上げして
「はあぁ!!!」
「てりぁ!!!」
俺の振り下ろしとリンの斬撃が衝突する。
その余波が周囲に広がる。
リンのユニークスキルなのだが、以前は最低限の風を程度しか出せなかった。
だが、クラリスやほかの樹守たちからユニークスキルのアドバイスをもらい、暴走させることなく使えるようになっていた。
なんでもリンのユニークスキルはあまりにも効率が良すぎるのが原因だったらしい。
暴走したのは、過剰に魔力を使いすぎて制御できなくなっていたから。
なのでエルフたちに協力してもらい、魔力を図ってもらいながら何度も微調整を繰り返し、ようやく使えるようになっていた。
なので今では全力を出しても容易に勝てる相手ではなくなった。
「『太刀風』」
「『パワークラッシュ』」
飛んできた風の刃をバベルで受け止める。
「『雷霆槍』」
「『障空流』」
『雷霆槍』はとある空間を通ると狙いがぶれて全く違う方向に飛んでいく。
(遠距離戦だと埒が明かない)
と言うことで十八番の『飛雷身』でリンの左後方に飛ぶ。
「は!!」
「っと」
キィン
澄んだ音と共に少し距離を取らされる。
「毎度思うんだけど、なんで飛ぶ方向がわかるんだよ」
「簡単ですよ。周囲に薄い風の流れを作って、流れが変わればその場所にバアル様がいるということです」
「……なるほどな」
あらかじめ周囲の風の流れを把握、そしてそこに乱れが生じるとその場所に俺が飛んだという証明になるわけか。
「『風辻』」
「『飛雷身』」
リンが刀に魔力を流した瞬間に俺自身も『飛雷身』で飛ぶ。
お互い一瞬にして場所が変わる。
「おいおい、模擬戦にそれを使うか?」
「安心してください、峰打ちですので」
それでもだろ…………。
「『嵐撃』」
「『聖ナル炎雷』」
リンが生み出した嵐にバベルで生み出した炎雷で対抗する。
威力は互角。
横抜きの竜巻は帯電した白い炎をせめぎ合い、共に消失する。
「…………前哨戦はここまででよろしいですか?」
「ああ、そろそろ本気で行こうか」
俺はバベルを肩に担ぎ、リンは刀を一旦鞘に仕舞う。
「『真龍化』」
「『風妃の羽衣』『神風』」
共に本気の状態になる。
片方は瞳孔が縦に割れ、頬の一部に鱗のようなものが出来上がり、体の様々な部分から雷が見え隠れする。
片方は翡翠の羽衣を纏い、漆喰のような髪が揺らめき、周囲の風が渦巻く。
ようやくだ、ようやく全力で暴れられる。
「ガァアア!!」
我ながら獣のような咆哮だと思う。
模擬戦だということは理解しているが、それでも期待せざるを得ない。
(頼むから最低限満足はさせてくれよ)
ドン!!
力強く地を蹴ると足跡の周囲に地割れが起きている。
「は~~~」
リンが軽く息を吐くと同時に俺の体が鈍くなっていくのがわかる。
「ふっ」
刀がが一閃すると、斬撃がそのまま俺に向かって飛んできた。
だが
(!?動きにくい)
想定したよりも体の動きが悪い。
リンの一閃を身を捩ることで躱して迫る。
(……なるほどそう言うことか)
腕を何度か振り何が起こっているか確かめる。
「これは風の阻害か」
「その通りです」
リンは肯定する。
「この『神風』は自分のすべてに追い風となり、相手の動き全てに向かい風となる、なので」
タッタッタッ
軽快な音とは違い、リンの速度は今の俺と同じほどで動いている。
「うらっ!!!」
リン向けてバベルを振り下ろす、だが腕にだけとてつもない強風が起こり動きを阻害する。
(振れなくはないな)
だが速度がかなり下がる。
これがセレナ、カルス、下手すればラインハルトでさえまともに動けない状態になるだろう。
「すごいですね、『神風』の中で私と同じ速度ですか」
「お前こそな、ここまで弱体化されるとは思わなかったよ」
「ではクラリスの助言も無駄ではなかったですね」
リンがこの技を使えるようになったのはノストニアでクラリスと訓練していた時らしい。
それから接近戦に持ち込み何度も刀とハルバートが打ち合う。
力は俺が上手で、速度はリンの方が上手。
防御力は俺が上手で、技術はリンが上手。
俺の一撃は刀で受け止められて、次の攻撃につなげる隙に何度も斬り返される。
だがその斬撃も服を切り裂く程度で俺の肌は薄皮一枚しか切れない。
そこからもお互い魔力の続く限り、模擬戦を始める。




