交易の形と未来への投資
(アルムが『塔』の契約者に会えたことを喜んだのはこれか…)
憶測を立てる。
(なぜ『塔』にだけ『反転』が起こらない?……考えられる理由は3つ)
一つは『反転』の条件がとてつもなく厳しい。誰もその条件を満たしたことがないから確認されてない
二つ目はそもそも『反転』が存在しない。これはさすがに考えにくい、シリーズとされているのに例外なんてものはあるとは思えない。
三つ目、それは―――
「――ある様、バアル様」
「ん!?ああ、どうした」
リンが俺の体を揺すり思考から戻す。
「どうした?」
「あの、グラス様からの使者が来ております」
「グラスから?」
アルベールとシルヴァをメイドに任せると俺と二人は使者が待っている部屋へ向かう。
「お久しぶりですバアル様」
「ルドルか」
そこで待っていたのは去年の合宿にて世話になった騎士、ルドル・セラ・アヴェンツだった。
「お前が来るなんてな」
ルドルは近衛騎士副団長、つまり騎士の中のNo.2だ。
そんな人物が暇を持て余すわけがない。
「本来なら前置きなど口上を述べさせてもらうのですが、必要なさそうなので省きます」
これが本来の貴族なら、言う必要がないって侮辱されているのもおんなじなのだが、ルドルは俺が本心でめんどくさいと知っているのでこういった対応を取っている。
「だな、で今回はどうしたんだ」
「……これを」
ルドルが出した書類を受け取り内容を確認する。
中身はノストニアとの交易についてだった。
「ノストニアとグロウス王国の国境付近に二つの町を作りそこで交易を行う、か」
「そのとおりです」
ノストニアとの会議では、お互いに全面的に受け入れるのは時期尚早と両国は判断した。なので交易の場を設けてそこから始めようというものだ。
「なるほどな、税などはどう考えている?」
「それぞれの街にはその国の税を適用しようと考えています」
計画はこうだ。
ノストニアの街ではノストニアの商品しか売り出さず、人族は買いだけを行う。
逆にグロウス王国の方の街はグロウス王国の商品を売りのみを行い、エルフに買いに来てもらうというものだ。
自分側の街でのみ『売り』、お互いの金銭を手に入れ、それぞれ『買い』のみ行く。
これが始まる交易の形だ。
「ふ~ん」
最初の段階としては上出来だ。
(だが暴利に走らないように王家に忠告を………必要ないか)
これくらいのことは分からない王家ではないだろう。
せっかくノストニアと良好な関係に慣れたのだ、自らそれを失うことはしないだろう。
「それで俺に報告に来たのか」
「はい、それもありますが」
「……が?」
もう俺に用はないはずだろう?
「実はエルフからできれば魔道具を売ってほしいと通達がありまして………」
「それはイドラ商会会長である俺に要請したい、と言うことか?」
「その通りです」
なるほど向こうである程度広めたのが理由か。
部下から大量に魔道具を求められているアルムの光景が目に浮かぶ。
「了解だ、これに関しては書状をしたためるようにグラス殿に伝えてくれ」
「了解しました」
こうしてルドルは帰っていく。
「むずかしいはなしは終わりましたか?」
ノエルが俺の部屋にワゴンを運んでくる。
「ああ……」
「どうしました?」
「いや、お前はわがままを言わないと思ってな」
以前から感じている物を聞いてみる。
「遠慮しているのか?」
「…私は拾われたの身なので」
そういってノエルはうつむく。
「ああ、そう思っていたのか」
「…え??」
「俺はお前たちを雇い入れたと思っていたんだがな」
「私たちをですか」
なんで?と表情に出ている。
その表所を見て思わず笑う。
「バアル様?」
「ああ、すまんすまん、理由としてはお前たちのユニークスキルにある」
ユニークスキルが希少なこと、今から教育すればすごい存在に成れる可能性があること。
「だから俺はお前たちに金を注いでいるわけだ、もちろん給金も出しているぞ、執事長に聞けば金をくれる手はずになっているはずだ」
「……………………」
ノエルは口を開けながらこちらを見ている。
「……あ、失礼しました」
「問題ない、だから、ある程度わがままを言ってもいいぞ」
すると何かを言いたそうにしている。
「ほら言ってごらん」
「…では図書室に入れてもらえますか」
もちろん俺は承諾した。
「ああ、もちろん仕事はきちんとこなしてくれよ」
「はい!」
そう言うと笑顔になり部屋を出ていく。
(ご機嫌くらいならいくらでも取るさ)
一騎当千の実力者になれる卵だ。
(大切に大切に育てて恩で動いてもらえる風になってもらわないと)
卵のままで食うよりも、生産性がある鶏にした方がいいのは誰だってわかるだろう。
「……さて、俺も準備をしないとな」
イドラ商会に向けて書類を準備する。




