彼にも守りたいものがある
「さぁここだよ」
僕たちは少年に連れられて一つの食堂にやってきた。
「それじゃあ、出会いを祝して乾杯!」
それぞれ持ったジョッキを当てる。
もちろん中身はジュースだ。
「それにしても初めて見る顔だけど、旅人?」
「ううん、知り合いの用事で少しここに来たのです」
「へぇ~どうりで見たことないはずだ」
「君はずっとここにいるのか?」
「そうだよ、生まれも育ちもこの街」
そういうと串肉を食べる。
「いや、でも助かったよ。最近は依頼がめっきり無くなっていてさ、この倉庫の依頼がないなら餓死しそうだったんだ」
「親御さんは?」
「……俺は孤児、スラム育ちだよ」
今までに見たことのない表情に彼はなる。
「ごめんなさい」
「なにが?孤児なのを聞いたこと?そんなの数多くいるさ」
謝罪など必要ないと言ってように笑いのける。
「そういえば、君たちはなんでギルドに?用事ってギルドの?」
「ちがうよ~、用事は付き添いできたんだけど少しの間ここにとどまるから、小遣い稼ぎだね~」
「へぇ~じゃあ、今はいいタイミングだな」
「それはどうしてだ?」
「いま貴族が依頼を出しているんだけど、それの報酬がいいんだよ」
「それって倉庫の整理か?」
カリナの問いに少年は首を振る。
「そう、でももっといい依頼もあるよ」
「どんな?」
「僕も気になる」
「ん?…………まぁ付き添いならいいか」
少年は何かを考えこみ、顔を上げる。
「ここだけの話だぞ」
僕たちは顔を近づける。
「実はな、長くここのギルドに世話になっている奴だけに特別な依頼が舞い込んでいるんだよ」
「特別な依頼?」
「そう、お前たちが言っているのは新しい倉庫の整理だろ?」
僕たちは頷く。
「だけど俺が言っているのは違う。旧倉庫のほうなんだ」
「そっちだと報酬がいいの?」
「ああ、一日で銀貨七枚になる」
確かにそれはかなりの違いが出る。
「そういえばなんで、この時期に荷物を移すんだろう?」
僕は気になっていたことを聞く。
「俺が聞いた話だと、どうやら害獣が倉庫に現れてやられたからって聞いたけど」
「それなら駆除だけで済むんじゃないの?」
「いや、なんかその害獣が毒を持っていたらしくな、倉庫が使えないからって急いで新しい倉庫を建てたって聞いたぞ」
少年の話を聞いている限りでは怪しいところはない。
「そういえば、いまアズリウスでエルフの噂が持ちきりにいなっているよね」
揺さぶってみる。
「……そうなのか?」
「うん、なんでもエルフは子供が攫われると、さらった町すべてを破壊するんだって」
さてどうだろうか。
少年の様子を窺うと気分が悪そうになっている。
「その話は本当か?」
「本当よ、一度アズバン領の最北の村に行ってみたんだけど、そこでエルフに会う機会があってね、聞いてみたら本当だって」
するとさらに顔が青くなる。
「どうしたの?」
ソフィアも僕たちの意図に気づいたのか乗ってくる。
「いや、その……」
すると何かを決めたかような顔になる。
「なぁお前たちはエルフに知り合いはいるか?」
僕たちは顔を見合わせる。
「説明してもらえるかしら」
「絶対にしゃべらないって誓えるなら」
僕たちは頷く。
「実はな……俺はエルフと会っているんだよ」
僕たちはあらかじめルーアさんから教えられていたから驚きはしなかった。
「お前らあんまり驚かないな」
「まぁね……それは奴隷?」
「首輪をつけていたからそうみたいだぞ」
「どこで?」
「………なんでそこまで知りたいんだ?」
「それは」
「待ってここは私が言うわ」
ルーアさんは周囲を見渡すと何かの魔法を使う。
「これでいいわね」
するとルーアさんの変装が解けていく。
「……は?」
「私がそのエルフだからよ」
「いや、その」
驚きすぎて何も言えない少年。
「で、どこなの?」
「……街を滅ぼすってのは本当か?」
「本当よ、証拠がつかめれば私たちは容赦はしない」
なにかを考えこむ少年。
「一つだけ条件がある」
「聞くだけよ」
「孤児院だけは壊さないでくれ、頼む」
そういって深く頭を下げる。
「ねぇ、なんでエルフの知り合いがいるか聞いたの?」
「……あいつらが原因でこの街がつぶされるくらいなら、俺が何とかして逃がそうと思ったからだ」
ルーアは少年を見極めようとする。
「そう、分かったわ、もしこの領が報復の対象になったら孤児院だけは見逃してあげる、けどその代わりにどこでエルフにあったか教えなさい」
この言葉に頷く。
「ああ、彼女を助けてくれ」
「ええ………そういえば名前を聞いていなかったわね」
そういえば名前を聞いた覚えがない。
「俺はローグだ。よろしく」
「私はルーアよ」
「僕はアーク」
「俺はオルド」
「ソフィアです」
「カリナだ」
「リズだよ~」
それぞれ自己紹介をする。
その後、話を聞き、宿に戻る。




