目的のため彼らを誘導しなくては
「遅かったわね」
僕たちが村に戻ると入り口で桃色の髪をした少女が待っていた。
「クラリス様!?」
ルーアさんが驚いている。
「とりあえず話はあとで、ついてきて」
桃髪の少女の後をついて行くと一つの民家にたどり着く。
中に入ると男をベッドに寝かせる。
「さて、ルーア何があったか教えて頂戴」
「はい」
アネットのいた村を出てからのことを細かく報告するルーア。
「なるほどね」
「現在はこのような形になってしましました」
二人はベットに視線を向ける。
「目覚めさせて話を聞きたいところなんだが」
「暴れられては困りますからね………仮にも赤葉のメンバーですし」
もしあの男が倒れたりしなければ勝負はどうなっていたのかわからない。
「とりあえず彼を連れてエルカフィアに向かうわよ」
ということで僕たちはクラリスさんの先導で神包都エルカフィアに来た。
「とりあえずはこの家を使って、アニキの隠れ家の一つだから」
ということで僕たちはクラリスさんのお兄さんの家に来ていた。
「それじゃあ私は薬師を呼んでくるから」
そう言って家を出るクラリスさん。
その間僕たちは男を代わる代わる監視している。
「にしてもすごいなこれ」
オルドは自分の耳を触って感触を確かめていた。
今の僕たちはクラリスさんから渡されたチョーカーを付けている。
これを付けると髪の色が金色となり、耳が少しとがってエルフのように見えるようになっている。
「たしかにね」
僕もとがった耳を触ってみる。
幻影というわけではなくしっかりと触感がある。
しばらく違和感を感じていたらクラリスさんが戻って来た。
「薬師を連れて来たわ」
「邪魔するよ」
少し年のいった老女が入ってきた。
「で、儂が見る患者はどこじゃ」
「えっと、こっちです」
ベッドに寝ている男を見せる。
「どれどれ」
それから体を隅から隅まで触診する。
「……なんじゃこれは」
「どうかしましたか?」
薬師のおばあさんは変な顔をする。
「儂は多く見て来たがこんな症状は初めてだ」
そう言って困惑している。
「詳しく話してもらえますか?」
「うむ、体の身体機能に基本的には問題ない。ただ」
「ただ?」
「うむ、魔法で調べてみたがこの者は脳が異常に小さい、いや小さくなっているというべきかのぅ。あとは少し肺が弱い程度だな……こんな症状は見たことがない。こやつの持ち物に何か薬とかなかったか?」
「それなら」
僕はあの白い薬を見せた。
「見たことがない粉だな」
薬師は指でつまみ観察する。
「まぁ長年の勘から言って薬ではないな」
「じゃあこれは一体なんなんですか?」
「さぁな、ただノストニアにはないものだとは断言できるぞい」
「……そうですか」
するとなにやらクラリスさんは考え始める。
「ルーア、新たな任務です。アズリウスの人達と合流してこの粉が何なのかを調べなさい」
「わかりました」
今度はクラリスさんがこちらを向く。
「君たちもできれば手伝ってもらいたい」
「はい、もちろん手伝います」
「そうだなここまでくれば最後まで終わらせないと」
僕たちもルーアさんを手伝うことを承諾する。
「では急いで行動をして。彼は拘束をしているがいずれ誘拐犯が違和感に気づくかもしれないからな」
ということで急いで僕たちは準備をしてノストニアを出る。
「これでよかったですか姫様?」
6人が出ていくと気を失っていたはずの男が起き上がる。
「ご苦労様、ばあ様もご苦労様」
「ケッケッケ、いいさ、まさかお転婆姫様に演技を頼まれるとは、小さい頃以来だのう」
「小さい頃もこういうことが?」
「ああ、勉強が嫌で、よく儂の部屋に隠れに来たのだ」
「ちょっと!?」
「そのたびに追いかけてきた先生に演技でごまかしたりもしていたの~懐かしい」
「へぇ~」
二人はクラリスの昔話で盛り上がっている。
「ンン」
「姫様も不機嫌になっているので話はここまでにしようか」
老婆はクラリスが怒るギリギリで話題を変える。
「にしてもここまでの演技が必要だったのですか?」
「あるわ」
男の疑問に即答するクラリス。
「アニキも客人のバアルも同じ考えで、なんでもいかに国が国民のための方針をとっても国民が納得しないと意味がないのだとか」
「なるほどのぅ、誘拐に人族が関われていると皆が知っている以上、交流にいい顔をするエルフはほぼいない」
「そこで彼らが活躍し誘拐組織を潰し人族にもこのような人物がいると知らしめたいわけですね」
「そういうこと、人族全員が悪者ではないって思わせる必要があるんだって」
そうしないといつまでもエルフから誘拐している存在と捉えられる。
そうすると双方に悪い影響が起きると考えた。
エルフは誘拐事件で嫌悪感を覚えるだろう。
そして人族は感じが悪いエルフを見て交流しようと思うだろうか、おそらく思わない。
そうなると最低限の交易のみしか行うようにしかならずにアルムの希望通りにはならず、バアルの希望通りにもならない。
よってこのような大がかりな段取りを用意している。
「ですが、あの子たちだけで大丈夫ですかね」
「大丈夫よ、彼らは一人じゃないからね」
ルーアはもちろん、アズリウスにもさまざまな仲間がいるのだから。




