怪しい人物の浮上
フィアが誘拐されそうになった日は本当は私が森に入るつもりだったの。
理由はおばあちゃんなの。
おばあちゃんは長老と同じくらいの年齢で、体がすっごく弱いの。
だから何かしてあげられないかな~って思ってたら、たまたま村にきていた樹守様の一人が教えてくれたの。
『おばあちゃんが元気になる薬草があの森に生えているよ』
私はすぐにとって来ようとしたけど、その日は雨だったからやめて、みんなと遊んでいたの。
それから3日ほど雨が続いて、その間に樹守様はにんむとかで帰っちゃった。
で次の日は晴れたから薬草を取りに行こうとしたの、でも
「わたし、その日にかぜで寝込んでいたの。そしたらお見舞いに来てくれた二人にそのことを話したら代わりに取って来てくれるって。そしたら」
「あの、事件が起きたのね」
少女は頷く。
「ありがとう、これは誰かに言ったかしら」
「まだ」
「そうだな、今村に人族の子たちが来ているだろう?」
二人の会話に割り込む。
「うん、いるよ」
「その人たちに話してごらん」
「なんで?」
「その人族が事件を解決してくれたのだろう?なら彼らにもお礼は言った方がいいぞ」
「……うん!そうだね!!」
その後、少女が探している薬草を一緒に見つけてあげると村に戻る。
「あっ、フィアだ!!」
少女は友達の姿を見つけると駆けだす。
するとしばらく話をすると頭を下げて謝罪している。
そしてそれを笑って許す、フィア。
最後に二人は笑顔で手を繋ぎながら帰っていく。
「手伝ってくれてありがとう!!!」
最後に振り返ってそう言った。
俺達は手を振りながらそれにこたえる。
「で、どう思うの?」
部屋に戻ると先ほどの話を吟味する。
「まぁ偶然と言えなくもないが」
「その御仁が薬草を伝えたのが何とも」
不幸な事故として処理される案件だが、なんとなく胡散臭く感じる俺達だ。
「こういう村に樹守が来るのは珍しいのか?」
「なくはないって感じね、樹守も部隊によって業務はさまざまだから」
「どこの部隊かわかるか?」
「確か、村の巡回は『赤葉』の部隊。それも『苗木』の仕事だったはず」
「そいつらが裏切っている可能性は?」
可能性があるならその周辺だと思うのだが。
「ないと思うわ」
クラリスは即座に否定する。
理由は『赤葉』の入団基準が特に仲間想いの強いエルフだかららしい。
「(まぁ国防に関わる人物が仲間意識が無ければ危ういしな………だが調べるぐらいはしておかないとな)……ほかの村に誘拐される数日前に『赤葉』の樹守が来ていないか調べてくれないか」
「いいけど、たぶん白よ」
「一応な……」
可能性があるなら少しでも潰しておかないとな。
それから人員を手配して調べても見ること、数日
「これって……」
アルムの別荘で結果を見ているのだが。
「なんで……」
書いてある紙には『赤葉』ではないが樹守の数人が事前に村に訪れていたという内容だった。
(だが、妙だ。組織に一貫性がない)
これがつながりのある組織だったらわかるが、『赤葉』だったり、現状を確認しに来た『青葉』、薬草目的の『黄葉』、ほかにも魔獣使いの『黒葉』、医療目的の『白葉』、さらには女性だったり男性だったり『若木』、『苗木』だったりと多種多様な人物が村に訪れていた。
「ただ、『大樹』だけは白っぽいな」
『大樹』の役職についているエルフ達の任務先などは全くと言ってもいいほど何も起こってない。
(まぁそれもそれで怪しいものだけどな)
「エルフは同胞を尾行する手立てとかあるのか?」
「残念ながらないわね」
エルフは魔力を見ることができるので尾行は無理なのだ。
「なぜです?その魔力とかは隠蔽できないのですか?」
「『魔力操作』が達者なエルフは限りなく薄くできるのだけど……それでも微かな色彩が出てくるから、実力者なら簡単に見破れるわ」
どうやっても体からは完全に魔力を遮断するのは無理だとクラリスは言う。
「なんか、その、魔法とかでどうにかならないんですか?」
リンの疑問は当然だが、クラリスはさらにバッサリと切り捨てる。
「無理よ、貴方は濡れた手を水で乾かすことができる?」
つまり隠蔽する魔法が仮にあったとしても、その魔法が魔力を使用している時点で魔力が見えるようになり意味がないのだとか。
(つまるところ、魔力を使用しないなら尾行はできるのか)
「そうですか…」
「それでどうする?この人たちについてもっと調べる?」
「いや、そんなまどろっこしいことはしない」
俺はあるものを頭に思い浮かべる。
「さてクラリス、頼みたいことがあるんだが」




