『黒霧の館』との契約
「こちらの方は?」
「3人とも私の護衛です」
私は今年最後に開催される裏オークションに来ていた。
「待っていたぞい」
会場に入ると、鷲のお面を付けた老人がこちらにやってきた。
「話は聞いている、では参ろうか」
そういうと少し離れた席に着く。
その周囲には様々な動物の面を付けた人物が席をかこっている。
「こやつらは儂の組のものじゃから心配はない」
「それは安心だね」
私が席に座ると、後ろに護衛で来ている、エルフ、ジェナ、ラインハルトが席に座っている。
「で、なんじゃったっけな、エルフを誘拐している組織を見つけたいんじゃったな」
「ええ、そうしなければエルフがアズバン領にむけて報復を仕掛けるようなので」
この情報はフェイクだ。
ここで馬鹿正直にエルフの交易のためにと言ったら、それをネタに強請られる可能性がある。
なのでここはエルフに協力する不自然ない理由にした。
「なるほどのう」
「で、どうです、協力してくれませんか」
「ふむ、見返りは?」
「では何を要求しますか?」
私はラインハルトさんを見ながら話を進める。
ここからは私だけでは判断できない。
「ではゼブルス家に後ろ盾になってもらおう」
「「!?」」
私とジェナは驚く。
なぜだか、クアレスは僕たちの後ろにバアル様がいるを知っている。
「なぜ、ゼブルス家の後ろ盾が?アズバン家か王家でも問題ないのでは?」
ラインハルト殿がなぜゼブルス家の後ろ盾が欲しいのかを聞く。
(たしかに、アズリウスを拠点にしているのならアズバン家が後ろ盾にしたほうが都合がいいだろうに)
わざわざ、遠くのゼブルス家を後ろ盾にする必要はない。
むしろ仲が良くないアズバン領でゼブルス家の後ろ盾を得たら、敵対勢力として見られる可能性すらある。
(デメリットしかないはずなのに、なぜ)
「色々考えているようだがな、儂らが欲しいのは魔道具じゃよ」
「魔道具ですか」
「ああ、とある組織にゼブルス家が通信用魔道具を供給していると耳にしてな」
すると一瞬、本当に一瞬だけデッドの目線が鋭くなった気がする。
「残念ながら、そんな事実は確認されていない」
ラインハルトはそういって否定する。
「だがお主が使っているそれはどうなんだ」
そういうと杖でラインハルト殿の懐を指す。
「……」
「我々は実力はたしかなのだが、いかんせん数が少ないのがネックだ、そこで」
「通信用魔道具を使用したいと?」
「できれば、儂たちはさらに飛躍すると思わんか?」
たしかに個の力はずば抜けている『黒霧の館』だ。
だがその反面、組員の数はかなり少ない。
「無論、お主たちだけで決めることはまず無理だろう。だから確認してくれぬか」
「………すでに確信しているようだし、誤魔化せないか」
そういうとラインハルト殿は懐から四角い石の塊を取り出す。
なにかを操作すると、石から声が聞こえる。
『ラインハルトか、何かあったのか』
「実はですね―――」
現状を話す。
「――ということで、判断を仰ぎたいのです」
『わかった、とりあえずそのクレアスに代われ』
ラインハルトがクアレスに近づき魔道具を手渡す。
「はじめまして、儂が『黒霧の館』の総督、クレアスだ」
『あっそ、でなに、俺の後ろ盾が欲しいんだって?』
「ええ、正確に言えばあなた方が使っている連絡用の魔道具を譲ってもらいたいのです」
『その見返りは?』
「我々はゼブルス家に不利益をもたらす行為はしないと約束いたしましょう」
『いいだろう、その代わりに今回の件にお前らも加われ、そして解決に協力しろ。その報酬に魔道具を支給してやる。ただ』
「ただ?」
『後ろ盾になることはない』
「話が違いますよ」
『違わねえだろ、お前たちは魔道具が欲しいだけ、俺は今回だけ手伝ってほしいだけ、ただそれだけだ』
依頼という形だとバアル様は言う。
逆に言うと組織からゼブルス家に助けを求める際に大義名分と報酬があれば動いてくれるということになる。
「……ふむ、いいでしょう。私たちがエルフの誘拐組織の尻尾を掴み、壊滅させる手伝いを、そしてその報酬に魔道具を融通してもらうということでいいですね」
『ああ、その代わりにきっちりと動いてもらうぞ』
「ええ、まさかこのように遠距離から話し合う魔道具だとは思わなかったですよ」
まるで示し合わせたかのように話が進んでいく。
クアレスは想像以上に魔道具が高性能で嬉しそうにしている。
そして通話が終わると、ラインハルトに魔道具を返却する。
「いや~いいものを見せてもらったよ」
「バアル様の承諾も取れたので先ほどの内容で手伝ってもらいますよ」
「ああ」
これで『黒霧の館』が全面的に協力してもらうことになった。




