強敵との戦い
走っていると冬から春に変わるのが体感できる。
「はぁはぁ、たくどこまで行ったんだよ」
二人はこの森に慣れているのか、かなりのスピードで走る。
「こっちは靴も換えていないから」
僕たちは雪山用に分厚い靴を履いているためとても走りにくいのだ。
「おい、アーク、お前だけでも二人の後を追え」
オルドがそういう、みんなも同じ意見なのか頷いている。
「わかった、先に行くよ」
僕は『青天の戦鎧』を使い、速度を上げる。
(……どこまで先に行ったんだ)
『青天の戦鎧』で走っているのに距離がなかなか縮まらない。
(見えた)
二人の後姿を捕らえることができた。
「キャアアアア!!」
だが、次の瞬間少女の悲鳴が響き渡る。
僕たちは立ち止まる。
「今のは……」
「アーク!!」
ルーアがアネットを抱いて戻ってくる。
「ルーア」
「アネットをお願い、私は様子を見てくるわ!!」
そういってアネットを僕に任して、声のする方向に走っていく。
「…………」
僕も何があったのか心配になる、だけどアネットを一人にするわけにはいかない。
「わたしたちもいこ!!」
「だけど」
「だいじょうぶたたかえないけどにげることはできるよ」
そういい、アネットは僕の腕を引っ張っていく。
(……すごいちからだ)
無意識に身体強化を使っているのか全力じゃないと抵抗できなさそうだった。
(……これなら最悪逃げることもできる)
アネットは邪魔にはならないと考え、僕もルーアの後を追う。
幾つかの茂みを抜けると戦闘音が聞こえてくる。
「ルーア!」
「アーク!?」
ルーアさんの後ろにはエルフの子供が一人、正面には緑色のローブを深くかぶった人物が二人。
そして二人のうち一人のわきにはエルフの子供が抱えられている。
「なんでここに子供が?」
「しかもエルフじゃないね、さらには樹守の一人か………情報が違うね」
そういってこちらを見据える。
「どうする?」
「当然、排除するしかないだろう」
そういうと子供を抱えてない方は二本の剣をとり切りかかってくる。
「させないわ」
ルーアさんは腰につけている二本の短剣で受け止める。
「アークはこの子を、はぁ!!」
「やはり、エルフと言うのは面倒だな」
一見リーチの差があることからルーアさんが不利に見えるが、そんなことなくローブの男は押されていく。
「切り刻みなさい!!」
ルーアさんが叫ぶとローブの足元から風が舞い上がる。
何十にも重なる風の刃を喰らい、もう一人の位置まで吹き飛ぶ。
だがローブは攻撃などなかったように空中で翻り、軽やかに着地する。
「ねぇ早くしてくれない?」
「じゃあお前も手伝え」
「え~~~」
まるで脅威ではないというように僕達の前で会話しだす。
「この!!」
「おっと、僕に向けて魔法を使ったらこの子に当たるかもよ?」
する一人がエルフの子供を盾にするように抱え直す。
「っ!!!」
悔しそうに腕を下げるルーアさん
するとそのタイミングで双剣の男はルーアさんに切りかかる。
そのスピードは先ほどの剣戟よりも数段速く、それゆえに息する暇もなくルーアさんの前に移動する。
「っ!!!」
「もらった」
男はルーアの首めがけて剣を薙ぐ。
「………………ほう」
剣はルーアの首元で光の盾で止められている。
(間に合ってよかった)
この『極光盾』は視認できた場所に任意に出現させることもできる。
ギリギリのタイミングで発動が間に合った。
「へぇ~~君がやったのか~~」
軽い口調の男は僕がやったと確信している。
「ユニークスキル持ちは高く売れる、その子も連れて帰るよ」
「……わかった」
そういうと双剣の男は体から魔力を溢れ出させる。
「そして『封魔結界』」
僕たちを囲むように結界が敷かれる。
「これは魔法を封じる結界だよ、だからさっきみたいに盾を作ることはできないからね~~」
軽口の男がそういうと双剣を持った男が襲い掛かってくる。
「ぐっ」
ルーアさんを援護するため、極光盾を作り出そうとするのだが、結界が邪魔して作り出すことができなかった。
「さあ、英雄殺しの剣術をみせてよ」
「っチ、余計なことは言うな」
そういうと双剣を巧みにつかいルーアと切り合う。
「やり、にくい、ですね!!!」
ルーアのほうが身体能力が上なのに押しきれていない。
男の剣を躱し懐に入ると短剣で刺そうとするが剣の腹で防がれ。
そのまま男が体勢を変え、剣の腹を滑り短剣がすり抜け、ルーアは無防備になる。
今度はその瞬間を狙って剣を振り下ろすのだが、ルーアさんは短剣で力任せに防ぐ。
一度剣は止まると思ったのだが男は剣から手を放し、腹部を殴りつける。
「くっ」
ルーアさんはそのまま転がり、男は空中で再び剣を取る。
どちらが押しているかは一目でわかる状況だ。
ルーアは力で秀でているが男の技量はルーアの比ではない。
(魔法が使えないのが大きいんだ)
ルーアさんはもとより弓や魔法の遠距離で戦うのが得意なタイプだ。
(僕が前になればもっと有利に戦える、だけど)
アークの後ろにはアネットとエルフの子供がいる。
彼が動けば、もう一人の男がこの二人を狙うだろう。
(それに人質もいる)
おかげで直接あの男を攻撃するという手段が取れない。
(『太陽の光剣』も『青天の戦鎧』も使えないのか)
何度も発動しようとしているが使えない。
するとルーアが僕の前に吹き飛ばされる。
「かっ、げほっ、アーク、二人を連れて逃げなさい」
傷だらけになったルーアが僕にそういう。
「けど」
「ここで、全員死ぬよりはましでしょ!!!!」
ルーアは思わず怒声を上げる。
「そうはいきません、僕たちとしても情報を持ち帰られるとめんどくさいので」
そういうと軽い男の方が腕を振るう。
「!?、カハッ!!」
僕の体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。
「え、何が」
「わかってないみたいだね、ならもう一度」
僕の体が何かに引っ張られるように宙に上がり、またそのまま落下する。
「ぐっ、ユニークスキル!?」
「う~ん、違うよ」
「じゃあ、この力は」
なんなんだ、と言おうとしたのだがすぐ目の前に双剣の男が迫っていた。
僕は一撃を剣で防ぐのだが、すぐさま柄の部分を蹴飛ばされ、剣を放してしまった。
「死ね」




